世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

世界経済評論IMPACT PLUS

PLUS No.9
日本の基礎研究の東アジア化
  :なぜ日本の基礎研究は下方に向かうのか?
新井 聖子(東京大学政策ビジョン研究センター・国際貿易投資研究所客員研究員)
2018.4.30
ref. コラム No.1065

要 旨

 近年日本の基礎研究力の国際的地位の低下が大きな問題となっている。この現象は特に日本の企業や大学の国際競争力が高い研究分野で顕著である。一方,逆にこれらの分野で中国,韓国の基礎研究力が向上している。その理由は,特に1990年代以降の日本政府の政策をきっかけとして,バランスを失する形で中国や韓国からの留学生等の受け入れが急増し,日本から知識のスピルオーバーが起こったためである。
 今後の日本の方策としては,日本の研究者が基礎研究の中心である欧米の国々と協力を増やせるようにし,量より質の向上,生産性の向上を図ることである。日本は先細りの援助ではなく,援助しつつも自国の力を一層高めるべきであり,そうしてこそ,他の東アジア諸国とも,互いに尊敬できる真の友好関係は築けるようになる。今後日本の政府や関係機関の早急な対応が求められる。

(本文PDFはこちら:impact_plus_009.pdf)
PLUS No.8
欧州における決済ビジネスの新潮流
  :Brexitを背景に英国からEUへ清算ポジションの移行が進む
金子 寿太郎((公益財団法人)国際金融情報センター ブラッセル事務所長)
2018.1.26
ref. コラム No.992

要 旨

 Brexit 後の EU と英国の経済関係が見通せない中,欧米金融機関は,英国が EU 共通市場へのアクセスを失う事態も視野に入れつつ,金融取引をロンドンからフランクフルト,パリなどに移し始めている。このうち金利スワップについては,EU 側 CCP による引き抜きが熱を帯びている。無秩序なポジション移行が生じた場合,市場のボラティリティ上昇といった金融システムへのリスクが顕現化する惧れもある。加えて,CCP同士の綱引きが更に過熱した場合,大口の参加先が優遇される反面,中小規模のポジションの先が相対的に不利に扱われ,そうした先にとって清算サービスへのアクセスが実質的に困難になる一種の金融排除が生じる展開も想起し得る。ポジションの移行が進むに伴い,CCP 間の利用コストが一気に逆転する可能性もあるため,今後の Brexit 交渉のほか,欧州の CCP および先行する欧米金融機関の動向,ならびに各種マーケット指標を注視していく必要がある。

(本文PDFはこちら:impact_plus_008.pdf)
PLUS No.7
トマ・ピケティ『21世紀の資本』 基本法則に関する研究
原 勲(北星学園大学名誉教授)
2017.10.23
ref. コラム No.935

要 旨

 トマ・ピケティの『21世紀の資本』が世界的ベストセラーになっている。それは現代の先進資本主義国が,富の不平等,すなわち富の所有者トップ10%が富の70%を支配しており(アメリカ,2010年),またその格差が21世紀の後半にかけて益々拡大していくという分析と主張が,多くの反響を呼んでいる要因である。本稿では主として本書の骨組みともいうべきピケティの「基本法則」に傾注して著者の理論的見解を分析し,その上で筆者のピケティ論評価を行っている。トマ・ピケティの基本法則は二つの公式すなわちα(資本分配率)=r(資本収益率)×β(資本所得比率),β=s(貯蓄率)/g(経済成長率)と結論式r>gである。 21世紀はαが拡大し資本支配が大きくなるが,それは少子高齢化によってgがゼロに近づくほど低下し,他方sは小さくなっても資本蓄積は大きいのでβが増大するためである。最後の公式rは歴史的にみて変わらないので資本の優位性を拡大させていく。この公式は用語に多少の違いはあるが,今日主流の新古典派経済学を踏襲している。問題なのは公式どおりにα,βが増大しているかどうかである。とくにαは規模に関して収穫一定の経済学の論理からはその拡大はないし,実証的にもその例はない。これは形式論理的なαの数値だけでは所得分配を論じえないことを示しており,ピケティはこの公式だけではなく膨大な税務データによって格差論を検証しようとしている。これは本稿の対象を超えた後段部分に書かれている。

(本文PDFはこちら:impact_plus_007.pdf)
PLUS No.6
アメリカ・トランプ政権下における日本の対外援助のビジョンの再構築に向けて
飯野光浩(静岡県立大学国際関係学部講師)
2017.8.1
ref. コラム No.892

要 旨

 2017 年 1 月に発足したトランプ政権は「米国第一主義」を掲げて,経済や外交などあらゆる分野で米国の利益を最優先する姿勢を示している。このことはもちろん,アジア地域にも大きな影響を及ぼしている。アジアでは,中国の著しい経済的・政治的台頭と米国の影響力減少という現状で,日本は難しい立場に置かれている。現在,日本政府は米国と連携して,中国とは競合的な関係にあるが,このような姿勢のままでと良いのかを,本稿では対外援助を例にして考察する。援助を取り上げるのは,この分野が一番,中国との競合関係が明確になっているからである。
 本稿では,日本の援助のビジョンを政治経済学的アプローチと経済学的アプローチの両方から考察する。その理由は援助とは優れて政治的なものであり,重要な外交手段であるからである。 最初に,日本の戦後の援助の歴史をふり返ることで,当時の国際政治経済の状況が如何に日本の援助ビジョンを規定してきたかを明らかにし,その枠内で現在の援助の原型が形作られて,その基本構造がそのまま現在まで続いていることを明らかにする。次に,現在の国際政治経済の状況を踏まえて,教育への支援が途上国の持続的な経済開発に死活的に重要であることを明らかにする。最後に,日本が目指す援助のビジョンとして,人的投資としての教育支援重視を掲げるべきであることを示す。

(本文PDFはこちら:impact_plus_006.pdf)
PLUS No.5
[鼎談]アジアの経済統合の行方とトランプ・ショック
馬田啓一(杏林大学名誉教授)+清水一史(九州大学大学院教授)+石川幸一(亜細亜大学教授)
2017.1.13
ref. コラム No.770 No.778 No.779

要 旨

 ASEAN 経済共同体(AEC),環太平洋パートナーシップ(TPP),ASEAN+6 の枠組みで進む東アジア地域包括的経済連携(RCEP),さらに,その先にあるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想―これら4つのメガFTA をめぐる現状と課題について,馬田啓一,清水一史,石川幸一の3氏が鼎談。AEC の成立プロセスから今後に向けて,トランプ氏の米国大統領当選によるTPP の頓挫がもらたす影響,RCEP に向けての課題,FTAAP への道筋とその見通し,そして日本の果たすべき役割について等,アジアの経済統合の行方をみすえ論議した。

(本文PDFはこちら:impact_plus_005.pdf)
PLUS No.4
日本の財政危機と民主主義
熊倉正修
(駒澤大学経営学部教授)
2016.8.15
ref. コラム No.692 2016.8.15

要 旨

 今日の日本では公的債務の累増にも関わらず与野党とも財政改革に消極的であり,事実上の財政破綻と言ってよい状況にある。高齢化が進む民主主義国では財政再建の先送りが不可避だという意見もあるが,日本の財政危機はむしろ真の民主主義が確立していないためである可能性が高い。近い将来に財政破綻が現実のものになったとしても,その後に同じことをくり返さないためには,当局の政策運営を多角的に監視するしくみを構築し,そこに国民が積極的に関与する必要がある。

(本文PDFはこちら:impact_plus_004_kumakura.pdf)
PLUS No.3
開発論のパラダイムを考える
宮川典之
(岐阜聖徳学園大学教育学部教授)
2016.6.27
ref. コラム No.655 2016.6.13

要 旨

 開発論は,第二次世界大戦後,独立した学問分野として確立した。当初のパラダイムは,構造主義に軸足を置いていた。それは既存の経済学と一線を画すものであり,いわゆるパイオニアたちの存在に注目が集まった。かれらは,当時流行していたケインズ経済学に大きく影響を受けていた。1970 年代から主要国で新古典派経済学の復権がなり,開発論もその影響を受ける。1980 年代から新自由主義が優勢となり,1990 年代にはワシントン・コンセンサスが提唱され,それがパラダイム化する。しかし20 世紀末に勃発したアジア経済危機により,新自由主義も弱体化する。21 世紀に入ると,新諸学派(新制度学派,開発のミクロ経済学,内生成長論,新構造主義,ネオケインジアンなど)が興隆し,カオス的状況となる。本稿では,これらの一連の流れを跡づけし,現在はビッグアイディアではなくて,各国地域に適合する理論政策が求められようとしていると結論づける。

(本文PDFはこちら:impact_plus_003_miyagawa.pdf)
PLUS No.2
政府と日銀は円安依存の経済政策からの脱却を
熊倉正修
(駒澤大学経営学部教授)
2016.5.25
ref. コラム No.611 2016.3.14

要 旨

 第二次安倍政権の発足以来,政府と日本銀行は円安誘導を意識した経済政策によって景気浮揚を図ってきた。しかし為替レートを均衡水準に比べて円安の状態を維持しようする政策は近隣窮乏化策であるだけでなく,景気の振幅を必要以上に大きくする,長期的な産業構造の調整を阻害する,政府の財政再建への意欲を後退させるといった点できわめて好ましくない。政府と日銀は持続性のない政策に頼ることを止め,責任ある態度で金融財政政策を運営すべきである。

(本文PDFはこちら:impact_plus_002_kumakura.pdf)
PLUS No.1
「GDP600兆円」目標と日本経済の将来
熊倉正修
(駒澤大学経営学部教授)
2016.4.11
ref. コラム No.585 2016.2.1

要 旨

 昨年秋に発表されたアベノミクスの新方針において2020年ごろまでに名目GDPを600兆円に引き上げるという目標が掲げられたが,この目標にはいくつかの望ましくない点がある。本稿ではこれらの問題点のうち,その実現可能性,短期間にGDPを大幅に引き上げようとすることの弊害,そして財政再建との関係を論じる。政府が過度に野心的な目標を設定して投資主導の成長を追求すると,長期的な経済の安定と効率性が損なわれるだけでなく,構造的な財政赤字の問題への取り組みが蔑ろにされる可能性が高い。

(本文PDFはこちら:impact_plus_001_kumakura.pdf)