世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1687
世界経済評論IMPACT No.1687

復活したマレーシアの国民車プロトン:奏功した中国メーカーによる経営改革

石川幸一

(亜細亜大学アジア研究所 客員研究員)

2020.04.13

 リチャード・ボールドウィンは,新しいグローバリゼーションについての著書「世界経済 大いなる収斂」でタイとマレーシアの自動車産業を比較し,「タイの成功,マレーシアの失敗」と述べている。2000年まではほぼ同レベルだった生産台数は,2005年にはタイが112万台,マレ-シアが56万台と2倍の差がつき,2010年にはタイ165万台,マレーシア57万台と約3倍の差がついている。輸出に至っては,タイが105万台(2019年),マレーシアは3万台程度と35倍の差となっている。

 マレーシアの失敗を象徴するのが第1国民車プロトンである。プロトンの販売シェアは6割を超えていたが,2002年に50%,2003年に40%,2006年に30%,2014年に20%を切るなど長期低落が続き,2018年に12%にまで落ちてしまった。

 しかし,プロトンの販売は2019年に回復に転じた。販売台数は4年ぶりに10万台を突破,シェアは16.6%に回復し,ホンダとトヨタを抜き国内2位となった。プロトン復活の原動力となったのは中国自動車メーカー吉利による経営改革だ。吉利は2017年にプロトンの49.9%の株式を取得,吉利から李春栄氏がCEOに就任した。

 2018年2月にプロトンは事業発展10年計画を策定した。同計画は,生産台数を2020年に20万台,2023年に30万台,2027年に40万台とし,国内市場シェアを10年で30%へ引き上げ,ASEANでのシェアを10%とするという野心的なものだ。2018年10月には,タンジュン・マリム工場を拡張し,吉利の右ハンドル車のグローバルな生産拠点にするために12億リンギの投資を行うことを明らかにした。12月には,プロトンは吉利のSUV「博越」をベースにしたX70の販売を開始した。さらに,部品調達コストの削減,工場の統合,販売拠点の増加などを進めた。

 2019年に入ると第1四半期の販売台数は前年同期比43.5%増でマレーシア全体の6.7%増をはるかに上回るなど改革効果はすぐに現れた。2019年にサガ,ペルソナ,アイリス,イグゾラの4車種で新モデルが投入され,いずれも大幅な販売増となった。プロトンの長期低落は,魅力的なモデルの投入失敗,高いコストと競争力の欠如,低い稼働率,ブランドイメージの悪化などが理由だ。低い稼働率と競争力の欠如という悪循環を価格競争力のあるモデルの投入により打破したことが反転の要因である。

 プロトンの課題は輸出の拡大である。2019年の輸出は約1000台と極めて小さいが,2027年には40%を輸出する計画である。そのターゲットはASEAN,中でもタイとインドネシアであり,プロトンはASEAN市場の10%獲得を目的としている。日系自動車メーカーの牙城であるASEAN市場に本格参入を企図しており,中国系企業となったプロトンによる日系自動車メーカーへの挑戦が今まさに始まりつつある。

付記:詳細は,石川幸一(2020)「吉利傘下で経営再建に成功したプロトン」世界経済評論インパクトプラスを参照願う。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1687.html)

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