世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米国の雇用統計改定が示唆するもの
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2026.02.23
失業率の低下で利下げ見通しは後退
2月11日発表の1月分米国雇用統計によれば,失業率は4.3%となり,2カ月連続で低下しました。一方,13日発表の1月分消費者物価指数(CPI)によれば,基調的インフレ率の指標である消費者物価中央値の前年同月比上昇率は+3.0%と,12月の+3.1%からわずかに低下しました。ただ,いわゆるフィリップス曲線が示す失業率が上昇すればインフレ率が低下するという関係は,2021年以降,大きく変化していないようです。下の表に示されるように,2021年から2023年初まで,失業率が低下する一方で,CPI中央値のインフレ率は上昇しました。その後,失業率の上昇につれてCPI中央値インフレ率は徐々に下がっています。
- 21年1月 22年1月 23年1月 24年1月 25年1月 26年1月
- 失業率 6.4% 4.0% 3.5% 3.7% 4.0% 4.3%
- CPI中央値 2.2% 4.3% 6.9% 4.9% 3.6% 3.0%
- (注)CPI中央値は前年同月比変化率
- (出所)米労働省労働統計局,クリーブランド連銀
こうした点から見ると,2カ月連続の失業率の低下は,当面の利下げの公算の後退を示唆するようです。実際,金利先物市場では3月18,19日開催の次回FOMCでの利下げの織り込みは10%以下に留まっています。
トランプ政権下で就業者数の伸びが鈍化
雇用統計の事業所調査は,過去に遡って統計が改定されました。非農業部門就業者数は,2024年4月頃から下方修正が大きくなっています。旧統計では非農業部門就業者数の伸びは,2023年12月~2024年12月に+201.2万人,率にして+1.3%,2024年12月~2025年12月には+58.4万人,+0.4%でした。一方,新統計では2023年12月~2024年12月は+145.9万人,+0.9%,2024年12月~2025年12月は+18.1万人,+0.1%となりました。前月比+13万人増と事前の市場予想を上回る伸びとなった2026年1月分を含めても2024年12月からの伸びは+31.1万人,+0.2%に留まります。トランプ政権下で就業者数の伸びが大きく鈍化したこと示されています。もちろん,就業者数の鈍化は,全てがトランプ政権のせいではないでしょう。ただ,保護貿易政策等によって国内雇用の増大を目指すトランプ政権にとって,今年11月の中間選挙に向けて政策の成果をアピールする上で,好ましい材料でないことは明らかです。
歴史的低水準で低迷する労働分配率
就業者数の下方修正の一方,週平均労働時間,時間当たり賃金は,ほとんど修正されませんでした。その結果,就業者数×労働時間×時間当たり賃金で見た民間非農業部門賃金総額は,概ね就業者数の分だけ下方修正されました。それを反映して,2026年9月頃の発表が予想されるGDP統計年次改定で,企業部門雇用者報酬が下方修正される可能性があります。その時,企業部門の付加価値全体の下方修正を伴わなければ,雇用者報酬/付加価値で算出される労働分配率も下方修正されることになります。企業部門労働分配率は,景気後退期に上昇するなど,景気循環に伴って変動する傾向があります。ただ,景気拡大期間中の労働分配率の平均値を比較すると,1983年1-3月期~1990年7-9月期の79.8%から1991年4-6月期~2001年1-3月期には80.7%に若干上昇した後,2002年1-3月期~2007年10-12月期には77.9%,2009年7-9月期~2020年1-3月期には74.6%,2020年7-9月期からの現景気拡大期では72.0%へと低下しています。直近値である2025年7-9月期も71.8%に留まっています。現行統計においても,労働分配率は歴史的低水準で低迷していると言えます。労働分配率の低下もトランプ政権の責任というわけではありません。ただ,景気拡大が続いても,その恩恵が労働者に行き渡っていないという点では,米国民はトランプ政権への不満を高めそうです。
米国の中間選挙では,通常でも政権に対する批判票が投じられやすく,政権与党側が議席を失う傾向があると言われます。上下両院のどちらかでも共和党が過半数を失えば,トランプ政権の任期後半の2年間の勢いはかなり弱くなりそうです。中間選挙に向けてトランプ政権が焦りを募らせ,内政・外交両面で拙速さや強引さを増し,結果的に失敗を繰り返して国内外でさらに求心力が低下することも考えられます。
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