世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
上昇を続ける日本の国債利回り
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2026.02.02
10年物国債利回り均衡水準は2.5%程度
最近,日本の国債利回りの上昇が顕著ですが,長期的には10年物国債利回りは,名目GDPの成長トレンドに概ね沿っているようです。1985年1月~2025年9月において,名目GDPの5年移動平均年率成長率(月次データーに換算)と10年物国債利回りの相関係数は0.816とかなり高くなっています。最小二乗法による回帰式では,10年物国債利回り=0.683×名目GDP5年移動平均成長率+0.911と表されます。
足元の潜在GDP成長率は,内閣府の推計では+0.5%程度です。インフレ率の均衡水準を2%とすれば,名目GDP成長率の長期均衡水準は2.5%程度と想定されます。これを上の式に代入すると,10年物国債利回り=2.62%となります。一方,1980年1月以来の10年債利回りの平均値は2.8%であり,名目GDP平均成長率の2.2%より高くなっています。ただ,過去に名目GDP成長率がマイナスであった局面があり,その時でも10年債利回りはマイナスにはなりにくかったことを考慮すれば,長期的には10年債利回りと名目GDP成長率は概ね等しくなると言えそうです。こうしたことから,10年債利回りの長期均衡水準も2.5%程度と想定されます。現在2%台前半にある10年物国債利回りは,長期均衡水準にかなり近づいてきたと言えます。
2%超のサービス支出デフレーター上昇率
ただ,現在上昇過程にあると見られる10年債利回りが,2.5%で上げ止まるとは限りません。2025年7-9月期のGDP統計2次速報発表に伴って示された2020年基準改定によって,サービス消費支出デフレーターの2025年7-9月前年同期比上昇率は,改定前の+1.6%から+2.6%へと大きく上方修正されました。サービス支出デフレーターは財支出のデフレーターと比べて短期的な振れが小さい上,サービス支出は国内最終消費支出の50%以上を占めています。その点ではサービス支出デフレーターは,基調的インフレ率の指標として捉えられます。
日銀は均衡状態における政策金利の実質水準を−1~+0.5%程度と推計しています。インフレ率の均衡水準を2%とすれば,名目水準は+1~+2.5%程度となり,中心値は+1.75%程度と考えられます。均衡状態において政策金利が1.75%程度,10年物国債利回りが2.5%程度というのは,国債利回りのタームプレミアム等から見て,もっともらしい感じがします。
しかし,基調的インフレ率が2%を超えているならば,金融政策は,緩和の程度を弱めて政策金利を均衡水準へ徐々に近づけるステップから,均衡水準を超えて引締めモードへ移行しなければならないということになるでしょう。そうなれば,一時的には政策金利は2%台後半まで上昇し,10年債利回りは3%を超えるということも十分考えられます。
米日利回り格差と円ドル為替レートの乖離
コロナ禍以降,日米10年物国債利回り格差(米国−日本)と,円/米ドル為替レートには強い正相関がありました。月次データーで2021年1月~2024年12月において,両者の相関係数は0.934と非常に高くなっていました。2025年に入ってその相関は崩れ,日本の国債利回りの上昇によって利回り格差が縮小した一方,円安に動いています。2025年1月以降の相関係数は,−0.784と大きく負の相関に転じています。これは,日本のインフレ率の高止まりや,政治が財政拡張策へ動いていることなどから,円の信認が低下していることによると考えられます。
こうした状態で日銀が国債買入れなどで国債利回りの上昇を抑えようとすれば,円安が進みかねず,結果的に国債利回りの上昇を抑えきれないでしょう。足元では為替市場介入への警戒感から円高に振れていますが,為替市場介入が実際に行われたとしても,経済のファンダメンタルズが変わらない限り,介入の効果は限定的かつ一時的でしょう。米国で失業率の上昇が加速し,追加利下げ機運が高まれば,ドル安・円高基調に転じ,日本の国債利回りの上昇圧力も低下しそうですが,現状では,まだそこには至っていないようです。
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