世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4194
世界経済評論IMPACT No.4194

令和8年の激動―権威主義国・ロシアの波乱

坂本正弘

(日本国際フォーラム 上席研究員)

2026.02.02

 波乱続く令和の御代は機会の時でもあるが,本8年の注目は相次ぐ権威主義国の危機である。イランでは,大量の流血の中,ハメネイ師は米国の介入を恐れて,地下壕に隠れ,政権崩壊の危機にある。中国でも,張又侠中央軍事委副主席,劉振立参謀長など軍の最高幹部の排除が報道されるが,さらなる注目は軍事大国ロシアの困難である。

 Kellog 米ウクライナ戦特使は,先日,ウクライナの戦力向上を論じ,ウクライナが1−2月の冬季の困難を凌げれば,3−4月には攻撃に転じ,戦局はウクライナに有利になるとした。また,シルスキーウクライナ総司令官は,戦争は守るのみでは勝てない,ロシア軍の損害は甚大であり,近く攻撃に転じ,勝利するとする。

 露ウ戦は,2022年2月のロシアの侵攻後,ロシア軍のキエフ周辺からの敗退と南ウクライナの占拠の構図となった。23年には,6月,ウクライナの南への反撃があったが,功を奏せず,その後の戦線膠着があった。ウクライナ善戦の背後には,特に米国からの軍事情報,武器の援助があった。24年にはクルスク州への進行もあったが,兵力に勝るロシアは北朝鮮軍の参加の中巻き返し,ドネツク州での攻勢を強めた。露ウ戦争の特色はドローン利用し,偵察・観察能力と攻撃能力を高める軍事技術の革新があったことだが,人海戦術重視のロシアよりも,ウクライナをむしろ利する状況があり,ロシア軍の人的被害が高まっている。

 2025年に入ると,トランプ大統領の停戦仲介が行われる中,プーチン氏はドネツク州での攻勢を急激に高めたが,それは多くの(40万人超)死傷者を伴うものであった。26年に入り,ロシアのミサイルやドローンによるインフラ攻撃はウクライナに冬季の苦しみを与えているが(トランプ氏の1週間停戦提案),勝利を急ぐロシア軍の人海戦術に対し,冬将軍,ドローンはロシア軍の兵站を困難にし,多数の人的被害を出し,投降者も相次ぐ。ウクライナの兵器生産力は高まり,戦況は,むしろウクライナに優位な展開になっているとされる。

 米国の戦略国際問題研究所(CSIS)は,この4年を過ぎる戦争での死傷者を,ロシア軍は120万人(うち死者は最高32.5万人)にのぼり,ウクライナ軍も50~60万人(死者は最高で14万人)と推計する。特にロシア軍の死傷者が多数であるのは,プーチンが目指すロシア軍の勝利を急ぐ肉弾戦が原因とされるが,26年に入り,月3万人を超えるペースだとする。

 ロシア軍はこの死傷者の補充を,モスクワなどの大都市を避け,各地方で高給で募集したが,足りず,募集を刑務所での犯罪人に拡大し,更に,外国人をも募集している。これの補充兵を,ろくに訓練せず,前線へ送り出していることも犠牲を多くしているが,25年以降の加速する人的被害の補充は限界に近いという。

 2025年再選のトランプ大統領は,2つの停戦を公約とし米仲介の露ウ会談を進めているが,プーチン氏にはロシア軍有利の情報のみが上がっているせいか,会談でのロシアの態度は,南ウ4州の全面掌握など高圧的である。しかし,今後,戦場でのウクライナ有利が明らかになった場合はどうなるか? 軍隊の補充ができず,戦況が不利となれば,核の脅しがあろうが,最終的には停戦に応ぜざるを得ないのではないか?

 トランプ氏も,当初は核大国,軍事大国ロシアに有利な停戦条件を提示していたが最近は,合意時の前線を領土問題の起点とするウクライナへの配慮も目立つ状況であり,更に,欧州諸国のウウクライナ援助や安全保障への関与にも積極態度が目立つ。

 以上から,遠くない将来,露ウ間での停戦の実現が可能との観測が強くなっているが,これはロシアにとって,プーチン氏にとって深刻ではないか? 当局は特別軍事作戦の成果を誇張しているが,前線での兵士がすでに一部帰還し,それらの帰還兵の齎す情報の一般市民への衝撃は無視できない。また,上述した犯罪人の帰還兵が社会に与える悪影響もすでに出始めている状況にどう対応するか?

 この4年間,ロシアは,国連をはじめ,多くの非難を受け,先進国の多くからの制裁を受けている。また,ウクライナ戦の中,シリアの政変,イランの動乱などへの介入はできず,中東,アフリカなどへの影響力も低下している。さらに,中国からの援助が不可欠な中で,露中関係は逆転し,シベリア,北極海での中国の進出を認め,上海協力機構,BRICSなどでも中国の後塵を拝している。

 以上の結果,プーチン氏は停戦後もその地位を保つことができるだろうか。権威主義国共通の致命的欠陥は,独裁者の退陣後の権力の継承が円滑でなく混迷に陥ることである。イランの混迷,中国情勢も目が離せないが,核大国ロシアの混迷の国際的影響は大きい。本年は,そのような事態への対応を考慮せざるを得ないでのではないか?

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4194.html)

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坂本正弘

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