世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
景気拡大の恩恵が家計に行き渡らない日本経済
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2026.01.12
企業と家計の景況感の乖離
企業と家計の景況感の指標として,日銀短観の業況判断DI(業況が良いと答えた企業と悪いと答えた企業の比率の差)と,消費動向調査の消費者態度指数をとると,2020年6月から始まった現行の景気拡大期において,両者の動きは乖離しています。短観の2025年12月調査によると,全規模・全産業業況判断DIは+17と,2018年3月調査の水準に並びました。これは,1990年代初めのバブル崩壊以降の最高水準です。一方,総世帯消費者態度指数は,2025年4月以降上昇傾向にあるものの11月には36.9(良い/悪いの分岐点は50)と,1996年1月以来の30年間の平均値である39.5を下回り,その間の5回の景気後退期中の平均値である36.5とあまり変わらない水準に留まっています。
GDP改定で明確化した雇用者報酬の停滞
昨年12月22日付の本コラムNo.4135「日本のGDP統計改定が示唆するもの」で述べた2025年7-9月分GDP統計二次速報値における統計改定の影響は,家計の所得の主たる源である雇用者報酬にも及んでいます。実質雇用者報酬(家計最終消費支出デフレーターで実質化)は,旧統計ではコロナ禍前のピークであった2019年10-12月期を2025年7-9月期には0.9%上回っていました。しかし,新統計ではコロナ禍前のピークであった19年7-9月期を25年7-9月期には1.5%下回っています。また,雇用者報酬を国民総所得(国内総生産+海外からの所得の純受取)で割ることで算出した労働分配率は,新統計では長期低下傾向が顕著となっています。旧統計では現行GDP統計の起点である1994年1-3月期には50.1%,2025年7-9月期には48.0%でしたが,新統計では94年1-3月期の49.0%から25年7-9月期45.7%まで下がっており,1994年以来の最低水準(2023年10-12月期の45.6%)にほぼ匹敵しています。
現行の景気拡大期は今月で68カ月目を迎え,第二次大戦後で既に3番目に長いものとなっています。しかし,景気拡大の恩恵は家計に行き渡らず,むしろ物価上昇が実質所得の目減りを招いています。それが,消費者態度指数の低迷として現れていると考えられます。
人手不足下で低下する有効求人倍率
短観12月調査によれば,全規模・全産業雇用人員判断DI(雇用が過剰と答えた企業と不足と答えた企業の比率の差)は−38と1991年9月調査以来の低水準となっており,企業の人手不足感は強く,企業が雇用を増やそうとする意欲は強いようにも見えます。ただ,労働需給のバランスを示す有効求人倍率は,2023年1月の1.35倍から2025年11月には1.18倍に下がっています。2001年1月から2022年12月までの期間では全規模・全産業雇用人員判断DIと有効求人倍率の間には−0.971と非常に強い負の相関があり,企業の人手不足感が強まると,有効求人倍率が上昇するという関係がありました。しかし,2023年1月以降では両者の相関は+0.824と正へ転じています。企業は人手不足を感じながらも,賃上げによる労働コストの上昇を懸念して,不採算事業の縮小や省力化投資の増大による雇用抑制・削減に動き出しているようです。さらに,AIなど知的財産投資の増大は,相対的に給与水準が高い大企業正社員ホワイトカラー層の雇用削減をもたらしやすいと考えられます。このため,今後も全体の雇用者報酬は増えにくく,労働分配率も低水準に留まるでしょう。景気拡大が今後も続いたとしても,景気拡大の恩恵が家計に行き渡らない状態が続きそうです。
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