世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
再考:外国人労働政策を産業政策として読む
(元南山大学国際教養学部 教授)
2026.03.02
日本の外国人労働政策をめぐる議論は,なぜかいつも噛み合わない。「人手不足への現実的対応」だという主張と,「移民国家化への転換ではないか」という懸念とが交錯し,議論は理念や立場の対立に収斂しがちである。感情論になってしまうこともある。しかし,その背景には,私たちが政策の性格を取り違えている可能性がある。
日本社会はすでに移民受入れ社会となっており,外国人労働政策は「移民政策」として理解できる。すなわち,誰を,どれだけ,どの条件で受け入れるのかという人口政策の問題である。しかし,これまでの制度の設計と運用実態を見れば,日本の政策は包括的な移民(外国人労働者)受入れというよりも,特定の産業・職業領域に外国人労働力を組み込む装置として設計されてきたことが分かる。
技能実習制度は,製造業,建設,農業など,現場型・身体的労働を中心に拡大してきた。特定技能制度は,介護,外食,宿泊,物流など,慢性的かつ深刻な人手不足分野が対象である。他方で,高度専門職制度は存在するものの,その規模は限定的であり,日本の職業構造を抜本的に変えるほどの影響力を持っているとは言い難い。ここから浮かび上がるのは,「誰を入れるか」よりも「どの仕事に外国人を配置するか」という政策の選択である。
近年の国際労働移動研究は,この配置の論理を理論的に説明している。例えば,Hanson and Liu(2021)(注1)は,高学歴移民の職業分布が出身国の教育の質と受入国の職業構造との組み合わせによって体系的に決まることを示している。移民の職業分布は,単なる賃金格差や人口圧力の結果ではない。出身国の教育制度や移民自身のスキル構成と,受入国の職業タスク構造との関係,すなわち比較優位の構図によって方向づけられている。
この視角を日本に当てはめると,外国人労働政策は単なる人口調整装置ではなく,職業構造を前提とした資源配分の仕組みとして理解できる。技能実習制度は中小製造業や建設業を支える労働力供給の枠組みとして機能し,特定技能制度は介護やサービス分野の労働不足を補完してきた。これらは労働力不足への受動的対応というよりも,既存の職業配置を前提に労働資源を配分する制度的装置とみるほうが自然のように思う。言い換えれば,日本は外国人労働者を通じて,自国の産業構造を維持・補完してきたのであり,それは事実上の産業政策にほかならない。日本は現在,技能実習制度の発展的解消として育成就労制度への移行を進めるが,結局は看板の架け替えに過ぎない。
そう考えるなら,日本の外国人労働政策は,実質的に産業政策の一部を構成しているといえるのではないだろうか。外国人労働者は単なる「不足の補填」ではなく,産業構造を維持するための構成要素として組み込まれてきた。その結果,どの産業を存続させ,どの職業を支えるのかという選択が,制度を通じて固定化される。
問われているのは,外国人労働政策を拡大するか否かではない。それがどのような職業構造を前提とし,どの産業配置を将来に残そうとしているのかという点である。日本の外国人労働政策を移民論争の枠内にとどめるのではなく,産業政策の文脈から読み直してみてもいいのではないだろうか。外国人労働者との「多文化共生社会」というスローガンが今一つしっくりこないのは,そのせいでもあるように思う。
[注]
- (1)Hansen, G.H. & Liu, C. (2023), “Immigration and Occupational Comparative Advantage”, Journal of International Economics, Vol.145, 103809.
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