世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1771
世界経済評論IMPACT No.1771

インド太平洋戦略の具体的な政策を提示:ARIAと2つの報告(米国)

石川幸一

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2020.06.08

 新型コロナウイルス感染拡大が続く中で中国は一帯一路構想を推進していく方針を変えていない。人の移動の制限などで工事は遅れているが,感染が収束していけば工事を再開するだろう。中国は東シナ海や南シナ海で海洋行動を活発化させており,一帯一路と海洋進出に対抗する構想である「インド太平洋戦略」はコロナ後に一層重要性を増す。

 米国議会は,2019年12月21日にARIAを実施するための予算25億ドルを承認した(注1)。ARIAと聞くとオペラが思い浮かぶが,このARIAは2018年12月31日にトランプ大統領が署名したアジア再保証推進法(Asia Reassurance Initiative Act)の略称である。年末年始と重なり日本ではあまり注目されず,報道や論説では台湾の安全保障への米国の関与に注目するものが多かったが,米国のインド太平洋戦略推進のための重要な法律である。

 「再保証」は米国のアジアへの関与を再保証することを意味しており,アジアはインド太平洋を指している。ARIAは米国のインド太平洋戦略についての議会の見解と政権への要求を示している。ARIAの対象範囲は極めて広い。対象分野は①外交,②安全保障,③経済,④米国の価値の4分野であり,対象地域は北朝鮮から太平洋島嶼国までのインド太平洋地域の国である。安全保障分野では,同盟国とパートナー,脅威となっている国として中国と北朝鮮,航行の自由,サイバー安全保障協力,テロとの戦いなどが取り上げられている。パートナーでは,インドとASEANを重視しており,インドを主要防衛パートナー,ASEANを戦略的パートナーに格上げすると述べている。

 ARIAは対象分野について現状分析,議会の見解を述べたうえで,トランプ政権の行うべき政策や行動計画を提示している。文章にはshallあるいはshouldが多く使われており,勧告ではなく義務となっている。重要な分野は予算歳出が認められており,たとえば,インド太平洋戦略における外交,安全保障,防衛,貿易,投資などについて毎年15億ドルの予算が認められている。ASEANへの戦略的関与など議会への定期報告が求められている分野も多い。

 ARIAが重要なのは議会が超党派で成立させたアジア戦略だということである。民主党を含めた議会の考えであり,政権が交代してもARIAで示されたアジア戦略が大きく変わることはないだろう。ARIAは政権をバックアップする目的とともに政権への注文を付けトランプ政権にタガをはめる意図がある。トランプ大統領の行動をみると,ARIAの注文や要望に応じていない行動が見受けられる。ARIAではASEANとのパートナーシップを重視しているが,トランプ大統領は2019年のASEAN米国サミットを欠席し大統領補佐官を出席させたことでASEANの不興を買っている。ARIAでは貿易問題へのWTOなど多国間の取組みを重視しているが,トランプ政権は2国間交渉を進めている。

 2019年に国防総省と国務省が詳細インド太平洋戦略報告を発表したが,ARIAをベースにインド太平洋戦略を詳細かつ具体化したものである。国防総省報告は安全保障分野での戦略を提示しており,国務省報告は米国がインド太平洋戦略でどのような政策や事業を行っているかを詳しく説明している。インド太平洋戦略は理念優先で具体的な内容が不十分との評価があったが,ARIA,国防総省と国務省のインド太平洋報告により米国のアジア戦略の具体的内容と方向性が詳しく提示されたと言ってよい。

*ARIA,国防総省と国務省のインド太平洋戦略報告については,「アジア再保証推進法,国防総省および国務省のインド太平洋戦略報告書にみる米国のインド太平洋戦略」(世界経済評論インパクトプラス No.16)を参照願います。

[注]
  • (1)The State and Foreign Operations, and Related Programs Appropriations Bill.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1771.html)

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