世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3856
世界経済評論IMPACT No.3856

米国の対中平均関税率は51.6%

石川幸一

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2025.06.02

 日本のメディアでは,米国の対中追加関税率は30%と報じられている。4月2日に発表された中国に対する相互関税率は34%だったが,中国が報復関税を発表したため125%に引き上げられ(4月10日10%,9日74%,10日41%),1月と2月に発表された20%を加えて,中国に対する追加関税は145%となった。しかし,米中両国は,5月12日に追加関税を115%引き下げることに合意し,米国の対中追加関税は145%から30%に低下した。これは,相互関税のうちベースライン税率の10%に1月と2月に発表された20%を加えた税率である。中国側も対米追加関税率を125%から115%を除いたものへ引き下げた。

 米国のピーターソン国際経済研究所によると,5月14日時点の米国の対中平均関税率は51.6%で,30%の追加関税率より20%以上高い(注1)。これは,第1期トランプ政権の2018年に発動された最大25%の対中追加関税が現在も維持されているためである(注2)。第1期トランプ政権で米国の対中平均関税は16.2ポイント上昇している。

 バイデン政権は第1期トランプ政権の対中追加関税を維持し,対中平均関税率は安定していた。しかし,2024年9月と25年1月に対中関税引上げがあり,対中平均関税率も19.3%から20.8%に微増した。第2期トランプ政権の対中追加関税はこれら既存の追加関税に上乗せされたものである。第2期トランプ政権の対中追加関税は30%(相互関税の上乗せ分24%は交渉中)だが,現在の対中追加関税は既存の最大25%の追加関税と合計し最大55%となる。2018年1月の米国の対中平均関税率は3.1%であり,現在は16.6倍高くなっている。なお,中国の対米平均関税率は32.6%であり,1月25日に比べ11.4ポイントの上昇である。

 中国の米国を除いた対世界平均関税率は2018年1月の8.0%から2022年には6.5%に引き下げられ,現在もその水準を維持している。一方,米国の中国を除く対世界平均関税率は2018年1月の2.2%から現在11.7%に上昇している。相互関税の上乗せ分は現在交渉中だが,米国の対世界平均関税率はさらに高まる可能性が高い。

 対中追加関税は30%とすると4月2日に発表されたカンボジア49%,ベトナム46%などASEANに対する相互関税は対中追加関税より高いことになる。しかし,対中追加関税が最大55%とするとASEANへの相互関税は中国よりも低くなる。ASEANへの相互関税は現在ベースライン税率10%が適用され,上乗せ分は交渉次第で引き下げられる可能性がある。相互関税発表直後にチャイナ+1の投資先としてのASEANを見直す動きがあると報じられたが,対中関税のほうが高いことに留意すべきである。

[注]
  • (1)Chad. P. Bown, “US-China Trade War Tariffs: An Up-to-Date Chart”. Peterson Institute for International Economies. May 14,2025.
  • (2)第1弾(818品目)と第2弾(284品目),第3弾(5,745品目)は25%,第4弾(3,243品目,スマホ,ノートPCなど555品目は見送り)は7.5%の追加関税が発動された。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3856.html)

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