世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2795
世界経済評論IMPACT No.2795

中国とASEANの経済関係の拡大と緊密化を推進したパートナーシップ行動計画

石川幸一

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2022.12.19

 日本とASEANは2023年が友好協力50周年だが,中国とASEANは2021年に対話関係30周年を迎えた。中国とASEANの協力関係は30年と日本より20年ほど短いが,包括的で緊密な経済協力関係が築かれている。実体経済面でも,中国は2009年以降ASEANの最大の貿易相手国であり,2020年にはASEANが中国の最大の貿易相手になるなど拡大,緊密化している。中国は東南アジア友好協力(TAC)に参加した最初のASEAN域外国であり,ASEANとのFTAを締結した最初の国でもある。戦略的パートナーシップ(2003年)および包括的戦略的パートナーシップ(2021年)関係を結んだ最初の国でもあるなど他の対話国に先んじてASEANとの関係を強化している。こうした点に中国のASEANを重視する姿勢が示されている。

 協力実施の枠組みは重層的である。基本的にはASEAN+1(中国)という枠組みで進められているが,金融協力はチェンマイ・イニシアチブなどASEAN+3(日中韓:APT)の枠組みで進められている。またメコン川開発は,メコン首脳会議など流域国6カ国(ラオス,ミャンマー,カンボジア,ベトナム,タイ,中国)の枠組みで進められているなど多様な協力枠組みが存在する。

 協力の仕組みも多角的だ。ASEAN中国首脳会議を頂点に多くの協議,協力の枠組みが作られている。首脳会議の下には,外相会議を初めとする閣僚レベルの会議,高級事務レベル協議が設置されている。ASEAN中国首脳会議は,1997年の非公式首脳会議以降定例化され,2022年に第24回公式首脳会議が開催されており,特別首脳会議も2003年の新型肺炎(SARS)についての特別首脳会議など何度か開催されている。ASEANと米国の外交関係は1977年に始まったが,首脳会議は45年間で10回(ほかに特別首脳会議が2回)であり,首脳会議レベルでの関係が米国に比べ緊密であり,ここにも中国のASEAN重視姿勢が示されている。

 中国のASEAN協力の中核になっているのが2003年の戦略的パートナーシップ宣言であり,中国とASEANが政治,安全保障,経済,社会文化の3分野を中核に包括的な協力を行うことを明らかにしている。協力を具体的な計画にまとめたものが,2004年の首脳会議で採択され2006年に開始された戦略的パートナーシップ行動計画(行動計画)である。行動計画は5年ごとに策定され,現在は2020年11月のASEAN中国外相会議で採択された行動計画(2021−2025)が実施されている。行動計画を実施するメカニズムは,委員会,フォーラムやビジネスサミットなど会議や交流,展示会,能力構築のための研修や訓練,基金,協力センター,中国による資金の供与など様々であり,こうした協力メカニズムは200を超えるといわれる。現行行動計画は政治安全保障8分野,経済14分野,社会文化9分野を中心に連結性,スマートシティ協力,SDG,ASEAN統合イニシアチブ,サブリージョン協力(BIMP-EAGAとメコン開発)を含んでおり,ASEANと中国とASEANの協力実施の包括的マスタープランとなっている。

 経済協力についてみると,対象分野は,①貿易投資,②金融協力,③食糧農業協力,④衛生植物検疫および貿易の技術的障害協力,⑤海洋協力,⑥ICT協力,⑦科学イノベーション協力,⑧輸送協力,⑨観光協力,⑩エネルギー・鉱物資源協力,⑪税関協力,⑫知的財産協力,⑬零細中小企業協力,⑭生産能力協力の14分野となっている。

 米中対立が激化する中でASEANは中国との関係を重視する米中バランス外交を堅持している。中国のASEANとの経済関係強化は戦略的に進められており,明確な目的を持ち,長期的,包括的,大規模であり,段階的に拡大強化されてきた。ASEANと中国の経済関係の発展の背景には,中国側のASEANに対する積極的な経済外交とそれを具体化する5か年行動計画が2006年以降,内容を更新拡大して継続して策定され実施されていることを認識すべきである。

*本稿テーマの詳細な論考は,「中国とASEANの経済協力と行動計画(2021−2025)」(世界経済評論インパクトプラス No.22)を参照ください。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2795.html)

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