世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.545

2015年末のASEAN経済共同体の実現とASEAN首脳会議

清水一史(九州大学大学院経済学研究院 教授)

小野沢純(元拓殖大学 教授)

2015.11.30

 今年2015年末には,ASEAN経済共同体(AEC)が実現される予定である。AECは,2003年の「第2ASEAN協和宣言」で打ちだされた,ASEAN単一市場・生産基地を構築する構想である。2007年の「AECブループリント」では,2015年までのAECの4つの戦略目標として,「A.単一市場と生産基地」,「B.競争力のある経済地域」,「C.公平な経済発展」,「D.グローバルな経済統合」を示した。

 現在,2015年末にどこまでAECが実現されるかが注目される。「A.単一市場と生産基地」の「物品の自由な移動」はAECの中心であり,とりわけ「関税の撤廃」に関しては,AFTAとともにほぼ実現に向かっている。AFTAは東アジアのFTAの先駆であるとともに,東アジアで最も自由化率の高いFTAとなっている。先行加盟6カ国は2010年1月1日にほぼすべての関税を撤廃し,2015年1月1日にはCLMV諸国も一部例外を除き関税を撤廃し,ASEAN全加盟国の関税撤廃割合は,95.99%となった。現在の日本のEPAの関税撤廃割合が90%以下であることを考えると,この数字はきわめて高いと言える。尚,CLMV諸国においては,関税品目表の7%に関しては,2018年1月1日まで撤廃が猶予されている。2018年にはベトナムの自動車なども関税が撤廃される予定である。

 「物品の移動」では,AFTAの原産地規則も利用しやすいものに改善されてきた。原産地証明の「自己証明制度」の導入や「税関業務の円滑化」等も進められている。しかし非関税措置の撤廃は,一部では新たに導入される例もあり,2016年以降の重要な課題となる。「サービス貿易の自由化」,「投資や資本の移動の自由化」,「人の移動の自由化」も徐々に進められている。「B.競争力のある経済地域」と「C.公平な経済発展」に関係する,輸送プロジェクトやエネルギープロジェクト,経済格差の是正等も多くの取り組みがなされている。ただしこれらは,2015年末に目標を達成するのは難しく,2015年末を通過点として,2016年以降の課題となるであろう。「D.グローバルな経済統合」は,ASEAN+1のFTA網の整備や,東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉の進展によって,当初予定の2015年末よりも早く達成された分野である。

 2015年末に,2007年の「AECブループリント」で述べられた目標のすべてが実現するわけではないが,AFTAにより関税がほぼ撤廃された現在の状況は,域内経済協力が開始された1970年代半ばや,AFTAが提案された1990年代前半の状況とは大きな違いがある。

 先週11月21−22日には,第27回ASEAN首脳会議と関連諸会議が開催された。ASEAN首脳会議では,南シナ海を巡る議論がなされるとともに,「ASEAN共同体設立に関するクアラルンプール宣言」によって,12月31日のASEAN共同体設立が宣言された。またこれまでのAECとASEAN統合に関する報告として『AEC経済共同体2015』並びに『ASEAN統合レポート2015』が提出され,2025年に向けてのASEAN統合のロードマップである『ASEAN2025』が採択された。

 『ASEAN2025』では,2025年に向けての「AECブループリント」の5つの戦略目標として,「A.統合され高度に結合した経済」,「B.競争力のある革新的でダイナミックなASEAN」,「C.コネクティビティーと分野別統合の強化」,「D.強靭で包括的,人間本位・人間中心のASEAN」,「E.グローバルASEAN」が提示された。昨年11月の「ASEAN共同体ポスト2015 ビジョンに関するネピドー宣言」で述べられた目標と比べると,「C」と「D」が入れ替わり,「C」の部分にコネクティビティーが付け加えられている。2007年の「AECブループリント」に比べると,「C」の部分は新たな柱と言える。またそれぞれの柱の中身では,新たな内容が加えられている。

 ASEANは,更に経済統合を深化させて行くであろう。ただし,ASEANにおいては,現在においても各国の状況の違いがあり,依然いくつかの統合への遠心力を抱えている。最近の南沙諸島を巡る各国の立場の違いと,各国の中国との関係の違いは,更にASEAN統合に緊張を与える可能性がある。

 10月にはTPPの実質合意が遂に達成された。これまでTPP交渉が進むとRCEPや日中韓FTAの交渉など他のFTAの交渉も進み,停滞すると他のFTAの交渉も停滞してきた。今後TPP交渉の進展がRCEP交渉と日中韓FTA交渉を進展させ,それらがAECの深化に圧力を掛けるであろう。またASEANは現在,TPP加盟国と非加盟国に分かれている。ASEANは広域のFTAに埋没しないためにも,自らをまとめ統合を深化させ続ける必要がある。

 ASEANは,時間を掛けながら着実にAECの実現に向かってきた。そして常に世界経済の中での発展を目指す経済統合を目標としている。EUとはタイプが異なるが,現代の経済統合の最重要な例の一つである。現在,今後の統合に向けて重要なステップにある。ASEANは,12月31日を大きな通過点として,2025年に向けてAECを更に深化させて行かなければならない。

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