世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3225
世界経済評論IMPACT No.3225

日ASEAN友好協力50周年と10の提言

清水一史

(九州大学大学院経済学研究院 教授)

2023.12.18

 今年は日ASEAN友好協力50周年記念の年である。12月16日からは日ASEAN特別首脳会議も開催されている。ASEANは1967年8月8日に設立された地域協力機構であり,その6年後には早くも日本とASEANの対話・協力が開始された。1973年11月日本ASEAN合成ゴムフォーラムがその起点であった。その後,半世紀にわたり日本とASEANは友好協力関係を築いてきている。この記念の年に,ASEAN研究会(ASGT)は,日ASEAN協力への提言を行った。また提言を含めた日ASEAN友好協力50周年記念論集(『日本ASEAN協力の次の50年へ向けて』)を刊行した。

 ASEANは東アジアの政治経済においてきわめて重要な存在である。ASEANは東アジアで最も古くからの地域協力機構であり,最も深化した経済統合である。1992年からはASEAN自由貿易地域(AFTA)の設立に向かい,2015年にはASEAN経済共同体(AEC)を創設した。東アジアの地域協力や経済統合においても中心である。2010年にはASEANを軸とした5つのASEAN+1のFTAを確立した。2020年に発効した東アジアのメガFTAであるRCEPを提案して交渉を牽引したのもASEANである。ASEANの経済規模も,急速な経済発展により日本の経済規模に近づいている。そして現在の厳しい東アジアや世界経済の状況下で,ASEANの重要性は更に大きくなり,日ASEAN関係はきわめて重要になってきている。

 ASEAN研究会(ASEAN Study Group in Tokyo: ASGT)は,この記念の年に,今後の日ASEAN協力へ向けて提言を行うこととした。同時に記念論文集を刊行することにした。ASEAN研究会(ASGT)は,AECが創設された2015年に発足し,ASEANに関する研究と意見交換を続けている。国際機関日本アセアンセンターに集まり,年6回ほどの研究会を続けている。2023年10月には第48回目の研究会を開催した。ASEAN研究会では,筆者が座長で,石川幸一氏,助川成也氏,中西宏太氏が幹事,石田靖氏が事務局である。

 「提言」では,今後の日ASEAN協力へ向けての以下の10の提言を行った。

  • 1.日本は,ASEANの将来ビジョンを考慮した長期ASEAN戦略を策定し,ASEANにインパクトを与えるような政策を打ち出し,ASEANと真剣な対話を行うとともに,より双方向の協力を促進すべきである。
  • 2.日ASEANは自由貿易の原則を支持し,協力して自由な貿易投資体制を維持拡大し,同時に強靭で安定したサプライチェーンを構築すべきである。
  • 3.ASEANはASEAN経済共同体(AEC)を更に深化させるべく,非関税障壁の削減や,地域の貿易自由化を死守する強いメッセージを発出すべきである。東アジアでは,RCEP,CPTPP,IPEF等の地域経済枠組みを活用して,ASEANを中心とする地域経済統合を更に推進すべきである。
  • 4.インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)の主流化・具体化を支援すべきである。民間セクターの関与を推進するためにASEANと日本を含むASEAN対話国の産業界も巻き込んだ「インド太平洋ビジネス諮問委員会」を立ち上げるべきである。
  • 5.自動車など製造業(ものづくり)の協力を更に促進すべきである。また大きな課題であるEV産業育成は,地域全体の利益を見据え,自由貿易体制を維持し,保護主義的な措置を回避しつつ,現地調達規定にASEAN原産品を含めるべきである。
  • 6.ASEANの連結性を拡大・深化させるとともに,周辺地域との連結性強化を支援すべきである。
  • 7.ASEANと連携して信頼性のある自由なデータ流通のルールの具体化・浸透を進め信頼できる自由なデータ流通を実現させるとともに,デジタル技術を活用して経済・社会課題の解決に取り組むべきである。
  • 8.ASEANは,経済発展に必要なエネルギー安定供給を確保するとともに,グリーン・トランスフォーメーションを積極的に推進すべきである。ASEANは,協力と調整を通じて地域の食料安全保障を確保し,加盟国が食料危機への対処に協力する仕組みを強化すべきである。
  • 9.貿易・投資におけるASEAN通貨建て取引増加のニーズ・課題をふまえて,官民での推進を検討すべきである。
  • 10.若い人たちの相互交流を更に促進すべきである。日本と ASEAN との間の知的交流を促進するための大学・研究機関の政策研究ネットワークの構築や交流基金の創設を検討すべきである。

 本提言が,今後の日ASEAN協力へ向けた一助となれば幸いである。また記念論集の「論文」の部では,専門家によるASEANに関する13の論文が,「エッセイ」の部では,同じくASEANに関する17のエッセイが掲載されている。

今年は,日ASEAN友好協力の次の50年に向けての起点である。今回の特別首脳会議は重要な出発点となる。今後,日本とASEANの協力と連携が更に不可欠である。それは,東アジアと世界経済にとっても必須であろう。

付記:10の提言の詳細については,また論文・エッセイについては,以下の国際機関日本アセアンセンターのHPを参照頂きたい。ASEAN研究会編『日本ASEAN協力の次の50年へ向けて―日ASEAN友好協力50周年記念論集―』。また提言の英語版は,以下を参照されたい(https://www.asean.or.jp/en/ajc-info/20231214/)。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3225.html)

関連記事

清水一史

最新のコラム