世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日ASEAN友好協力の50年とASEAN経済統合
(九州大学大学院経済学研究院 教授)
2023.08.21
今年2023年は,日本が1973年にASEANとの友好協力関係を始めてから半世紀の50周年記念の年である。友好協力を祝する多くの催しが行われ,12月には東京で日本ASEAN特別首脳会議が開催される。日ASEAN友好協力50周年とは,日本が,1973年の合成ゴム交渉をきっかけとして,地域協力体としてのASEANとの友好協力関係を樹立して以来の50周年である。
ASEANは東アジアの政治経済においてきわめて重要な存在となっている。ASEANは,1967年に設立されたアジアで最も古くからの地域協力・地域統合である。1992年からはASEAN自由貿易地域(AFTA)の設立に向かい,2015年にはASEAN経済共同体(AEC)を設立し,経済統合を更に深化させている。東アジアの地域協力や経済統合においても中心であり,複数のASEAN+1のFTAを確立してきた。ASEANが提案して交渉を進めてきた東アジア全体のメガFTAであるRCEPも,2022年1月に発効した。
ASEANの経済規模は,設立当初や日ASEAN協力が開始された当時は相対的に小さかったが,その後の急速な経済発展により日本の経済規模に近づき,大きな影響を持つようになっている。ASEANは政治的にも東アジアにおいて重要な役割を担っている。
日本は,このようなASEANと,1973年という早い時期から長期の友好協力関係を維持してきている。きわめて緊密な関係を保ち続け,経済関係はとりわけ深く,貿易投資関係も緊密である。多くの企業がASEANで経済活動を行っている。そして日本はASEANに多くの協力も行ってきている。
これまで日本とASEANは,首脳会議,外相会議,経済相会議をはじめ多くの対話を実践してきている。また日本は,ASEAN文化基金や日本ASEAN統合基金(JAIF)などの多くの基金を創設して,ASEANへの支援を行ってきた。そしてASEAN経済と経済統合に日本が協力し貢献した多くの例がある。ASEAN経済と経済統合に貢献した近年の典型例として,2015年4月に日本の無償資金協力によって完成したカンボジアの「ネアックルン橋(つばさ橋)」が挙げられる。ASEANとの対話と経済統合への協力では,2008年からのASEAN事務総長とASEAN日本人商工会連合会(FJCCIA)との対話も挙げられる。日本の提案によって2008年に設立されたERIAの調査と提言も重要である。1981年に設立された国際機関日本アセアンセンターも,長期的に日本ASEAN間の貿易,投資,観光の増進を図ってきている。またASEAN経済と経済統合に,日本企業が経済活動を行う中で貢献できた例もある。典型的な例は自動車産業である。
日本とASEANは,これまで50年にわたる協力を積み重ね,最近の厳しい世界経済の状況下においても,ASEANの経済発展や経済統合への多くの協力が継続されている。コロナ拡大下では,その対策としてASEAN感染症対策センター(ACPHEED)の設立などの協力も行われた。2020年7月には「日本ASEAN経済強靭化アクションプログラム」を表明した。2023年には,次の50年に向けた「日本ASEAN経済共創ビジョン」を発出する。
日ASEAN協力では,これまで積み重ねてきている協力とともに,コロナ後の変化を含めた大きな変化の中で,デジタル化やSDGs,新たなイノベーションなど新たな分野の協力が求められている。また日本とASEANは,自然災害,省エネルギー,高齢化など共通の課題においても協力できる。日本が課題先進国として対処して来たことも役立つであろう。
そして日ASEAN協力においては,より相互の協力が重要となる。日本とASEANは,経済規模でもより対等に近づいてきている。貿易規模では,ASEANの対世界貿易額が日本の貿易額の約2倍と大きくなり,ASEANから見た日本の貿易割合は小さくなってきている。ASEANの政治的意味も大きくなっている。デジタル分野などに見られるように,ASEANの方が進んでいる分野もある。ASEANから学ぶことが重要であり,相互の協力が必須である。
東アジアの地域協力枠組みは,RCEPを含め更に重層的となってきており,ASEANがその要である。ASEAN中心性が維持されるように,日本の協力が肝要である。「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」と「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」を協力して進めることも必要である。
今年12月には日本ASEAN特別首脳会議が開催される。日ASEAN友好協力の次の50年に向けての大きな出発点となるであろう。日ASEAN友好協力50周年の先に,日本とASEANの協力と連携が更に不可欠となる。それは,東アジアと世界経済にとっても必須である。
付記:本稿に関しては,拙稿「日ASEAN友好協力の50年とASEAN経済統合」,『世界経済評論』2023年9・10月号(特集 日ASEAN友好協力50周年記念:地域の安定と発展に向けて)も,参照されたい。この特集では,拙稿を総論として7つの論文によって,日ASEAN協力の実態と展望を論じている。
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