世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3954
世界経済評論IMPACT No.3954

外資によるインド「二重立地戦略」:「輸出向け」経済特区と「国内向け」国内関税地域へ

朽木昭文

(国際貿易投資研究所 客員研究員)

2025.08.18

 インドに進出するスマートフォンを製造する外資企業は,「輸出向け」では経済特区(SEZ:Special Economic Zone)に,また,インド「国内向け」では国内関税区域(DTA:Domestic Tariff Area)への投資を進めた。これが,「二重立地戦略」である。しかし,この戦略は,インド国内向け生産の拡大に課題を残した。SEZで製造された,製品を国内に販売するには,スマホ完成品として20%の関税などが製品価格に上乗せされるためである。

メイク・イン・インディアの成果

 2014年から導入された「メイク・イン・インディア」は成果を挙げた。2015~2018年にかけて,Foxconn(台湾のアップル向けEMS企業),サムスン,Xiaomi,Oppo,Vivo,Micromaxなどがインド国内に製造工場を新設または増設した(注1)。第1次モディ政権(2014年~2019年)では,携帯電話輸入額は激減し,2014年74.3億ドルから2019年8.6億ドルとなった(注2)。

2020年国内生産率ほぼ100%へ

 各年度の国内製造率(販売されるスマホのうち,国内製造分)は次のとおりに増加した(注3)。2014–15年度では前年度の19.9%から26%になった。続く2016–17年度2016年度では約67%である(Frost & Sullivan による推計による)。更に2017–18年度では80%,2018–19年度では95%の国内生産率を達成し,2019–20年度に約96%となり目標が達成された。2020年度以降もさらなる拡大が続き,2024年度で99%以上となっている。

経済特区(SEZ)外資に関する奨励

 ところで,2006年2月10日に経済特区法(The Special Economic Zones Act, 2005)が,SEZs Rules 2006 に基づき発効した。対象産業は,携帯電話,半導体・ディスプレー,自動車などを含む(注4)。

 「輸出向け」の外国企業誘致のための主要な優遇措置(インセンティブ)は,つぎのとおりである(注5)。①当該SEZが公告された年から15年間のうち最大10年間まで法人税が減免され,原材料・部品の輸入関税も免税される。②100%輸出指向型企業として認定された企業は「保税倉庫」としてのステイタスを付与される。その他の主な税の優遇政策は次のとおりである。資本財・消耗品などの輸入が「完全免税」される。輸出所得は,最初の5年間は100%免税され,続く5年間は50%免税である(注6)。

FoxconnやサムスンのSEZとDTAの二重立地戦略

 州政府は,中央政府の「メイク・イン・インディア」政策と共に「土地・インフラ・税制支援」を提供した。2014年以降に,ウッタル・プラデーシュ(UP)州,タミル・ナドゥ州,アーンドラ・プラデーシュ州などの各州が積極的な投資奨励策を実施した。

 Foxconnやサムスンのようなグローバル企業は,輸出向けのSEZと国内販売向けのDTAを併用する「二重立地戦略」(Parallel Facility Strategy)を採用した。Foxconnは,2015年にマハーラーシュトラ州やアーンドラ・プラデーシュ州スリシティ(Sri City)のSEZに立地した(注7)。また,インド政府の「メイク・イン・インディア」政策に呼応し,複数の州政府と共に通常の関税などが適用されるDTA内において工場を設置した。

 サムスンは,タミル・ナドゥ州のスリペルンブドゥール(Sriperumbudur)SEZ内に立地した(注8)。ここでは主にスマートフォンや電子部品の製造を行う。また,ウッタル・プラデーシュ州ノイダ(Noida)のDTAにおいて大規模な製造工場を運営した。この工場は,インド国内向けの生産拠点として中心的な役割を担っており,2018年には「世界最大のモバイル工場」として拡張された。

経済特区の課題:国内販売におけるスマホ輸入関税

 インドの経済特区(SEZ)から国内市場への販売の場合に,輸入関連の関税および税金が加算される(注9)。これは,基本関税(BCD)20%,基本関税に対する社会福祉付加税2% (Social Welfare Surcharge),および課税後の価額(122ドル)に対する統合物品・サービス税(Integrated Goods and Services Taz)28%を含む。スマートフォンの出荷価格CIFが約100米ドルの場合に,最終的な国内到着価格は,156.16米ドルとなり,出荷価格より「56%」高い。

生産連動型インセンティブ(PLI)による二重立地戦略からの転換

 一方で,SEZからインド国内へのスマホの販売に関税などが課せられる一方で,国内関税区域DTAで生産する場合には,完成品の組み立てで使用する輸入「部品」に関税が課せられる。この部品への関税が外資をDTAへ誘致する際の障害となる。そこで,インド政府は,2020年から「生産連動型インセンティブ」(PLI)の「補助金」によりDTA(国内関税区域)への外資導入を促した。PLI補助金がDTAの誘致に有効であった。詳細は次回コラムに引き継ぐ。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3954.html)

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