世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3975
世界経済評論IMPACT No.3975

経済特区から国内向けDTAへのシフト:PLIの「補助金」による効果

朽木昭文

(国際貿易投資研究所 客員研究員)

2025.08.25

 インド政府は,「輸出向け」の経済特区(SEZ:Special Economic Zone)から「国内向け」の国内関税区域(DTA:Domestic Tariff Area)へのシフトを支援する政策を採った。DTAでの生産に用いる,外国からの「輸入部品」に対して課せられる関税について,生産連動型インセンティブ(PLI:Production Linked Incentive Scheme)による「補助金」をもって相殺できる仕組みを導入した(注1)。PLIはインドにおける「スマホ産業集積」の形成プロセスの「アクセル」となる。DTAは国内販売も輸出も可能であるり,Foxconn(アップル向け)やサムスンなどに対してSEZから国内関税区域(DTA)への生産の移動を促した。

スマホ生産のSEZからDTAへのシフト促進のための「補助金」

 2020年に発効した生産連動型インセンティブ(PLI)は,DTAにおける企業の売上高に応じて補助金を支給する制度である。国内製造業の振興のために外資にも適用される優遇策である(注2)。DTAとは,国内関税区域であり,通常の国内市場向けの生産拠点である。DTAでは部品・原材料の輸入に関税がかかるため,その負担をPLIによる補助金で「相殺または超過補填」する。これがPLI政策設計の中核にある。つまり,企業は,DTAにおいて「関税免除」の恩恵がなくてもPLI制度による補助金により関税分を相殺可能である。さらにDTAでは,国内販売と輸出の両方を同一拠点から行える。ことから,税務処理の柔軟性が高まるという利点がある。

DTAにおける「補助金」率

 PLIの仕組みは以下の通りである。対象産業は,「携帯電話」,主要原料(KSM),大規模エレクトロニクス(電子部品),「自動車・同部品」,医薬品など。補助金対象は2020年以降の「売上額」の増加分であり,支給期間が最大5年間(2020~2025年)である。

 具体的には対象企業であるアップル関連企業や,サムスンなどの大規模電子製造企業で,補助金はなる「売上額」の4~6%(年次・条件により変動)相当額となる。補助金率が異なる理由として,新規参入外資系(アップル系)に最大6%,インド国内に初進出の既存インド拠点持つ外資(サムスン)に最大5%,既存実績ありのため新規誘致の比重が低め地場EMS企業(Dixon等)に最大4%である。

 アップル系(Foxconn,Wistron,Pegatron)向けの平均補助金率は,2021〜2023年に「6%」(対象は輸出額+国内売上額の増加分)である(2021年度に48億ルピー,2022年度に102億ルピー,2023年度に168億ルピー)。サムスン向けの補助金率は,2021年度,2022年度に「5%」,2023年度に「4%」である(補助金額が,2021年度に32.5億ルピー,2022年度に57.5億ルピー,2023年度に56億ルピー)。

ほぼアップル・サムスン向けの補助金の実績

 PLIの補助金支出実績は,2020年から2025年までに総額が1402億ルピー(約2370億円)である(注3)。その他,電子機器,医薬品等14セクターに対し支払われている(注4)。スマートフォン分野における補助金実績は,2022年から2025年までに870億ルピーである。Foxconn,Tata,Pegatron,サムスン,Padgetの上位5社への補助金が「98%」を占める。

 各年のPLI支給実績は,2022年度に290億ルピーであり,約90%がFoxconn,Pegatron,サムスンへの支給である。2023年度は470億ルピーであり,約95%がFoxconnなどのアップル系である。2024年にアップル系とサムスンへの補助金が「94%」を占める。

成功したDTAへの誘致

 PLIは,インド国内向けの販売であるか輸出であるかを問わずに補助金が支給される制度である。この結果として,企業は,輸出中心のSEZ生産よりも,国内向けと輸出向けの両方が可能なDTAでの生産にインセンティブを見出した。その結果,2021年度から2024年度までの輸出額は,31億ドル,58億ドル,111億ドル,156億ドルとなった漸増した(注5)。こうしてPLI補助金によるDTAへの外資導入は成功した。

スマホ完成品,部品企業のインド生産のシークエンシング

 インドは,スマホ産業に関して,第1段階で「メイク・イン・インディア」政策により「逆転関税構造」の転換により完成品の関税率を部品のそれより高くした(詳細は8月11日付,本コラムサイト No.3932参照)。そして,完成品の生産企業からのインドへの外国投資を誘致の条件を整えた。第2段階で「段階的製造プロジェクト」政策により段階的に完成品の関税率を20%まで引き上げ,部品の関税率を20%以下の10%程度に止め,外資導入を促進した。第3段階で「生産連動インセンティブ」政策の補助金をDTA(国内関税区域)に与え,特にFoxconnやサムスンに対して経済特区からのシフトを促した。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3975.html)

関連記事

朽木昭文

最新のコラム

おすすめの本〈 広告 〉