世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.561

メガFTA時代への日本の対応:ASEAN経済共同体発足を目前に

岸本寿生(富山大学経済学部 教授)

寺島実郎(日本総合研究所 理事長)

2015.12.21

 ASEAN諸国は多くの地域や国とFTAを締結してきたFTAの優等生である。そして,2015年末,これまでのAFTA(ASEAN自由貿易地域)を発展させ,AEC(ASEAN経済共同体)を発足させる。また,TPPでは,シンガポール,マレーシア,ベトナム,ブルネイが大筋合意をし,タイやインドネシアも参加に関心を寄せている。これから,ASEANでは投資が活発化し,経済的に最も沸き立つ地域の一つになると言っても過言ではないだろう。

 地域経済統合の進展により個人,団体,企業さらに国家の利益拡大に直結するかは,締結の時の反対運動を見ても,言わずもがなである。市場統合により拡大された市場の富は増加するが,必ずしも関係者の利益は一致するものではなく,市場統合により生じる利益は参画するプレーヤー同士の競争により取り分が決まり,他方既存の利益が消失するリスクもある。市場統合は多層的に見ていかなければならない。

 ASEANのいくつかの国の日系企業を訪問した際に,AECへの期待を質問すると,企業により温度差があった。ASEANはすでにAFTAとして関税を削減し自由貿易協定を促進してきたので,EUと異なるゆるやかな市場統合であるAECを大きな変化として捉えるか否かで意見が分かれるからであろう。非関税障壁についてはまだまだ数多くの課題が残っている。

 さて,日本にとってこのような市場統合にどのように向き合うべきであろうか。インドネシアでは,高速鉄道の建設において内容に大きな問題があるものの中国が手掛けることになったのは周知の通りである。その他にも,日本よりも韓国の企業の方がジャワ島内陸部に積極的にアプローチをしているという。ミャンマーでは,日系のティラワ工業団地建設が注目され,第一期販売分はすぐに完売したが,それ以外の部分では,日系企業のパフォーマンスは高いとは言えない。ベトナムにおいても,製造業の進出は早かったが小売りなどでは出遅れ感がある。

 AFTAからAECになり,TPPが発足するようになると,まず関税の撤廃や引き下げや規制緩和が期待される。このことは,東アジアにおける生産拠点の集約や工程間分業の再編によるサプライチェーンの新たな構築を行う契機となり,サービスや金融の分野でも展望が開けるであろう。

 また,それ以外にもインフラ整備や行政手続の簡素化など投資誘致に余念が無い。ジャカルタのインドネシア投資調整庁(BKPM)を訪問した際,国内24港の整備計画や高速鉄道や発電施設などの計画,さらに投資手続のためのワンストップ・サービスについてのレクチャーを受けた。この様な環境整備は,中小企業にとっても海外進出のモチベーションを高めFTAの効果を享受することに繋がるであろう。

 しかし,その一方日本国内ではこの様なFTAに対応した制度や組織が十分整備されているとは言い難い。例えば,原産地証明の手続はFTAごとに複雑であり手続をサポートする組織の充実が求められるが,特に地方企業にとって,量や質の面で容易にFTAを利用できる状況になっていないように思われる。メガFTA時代に即した国内サービスの見直しを早急に行うことが期待される。

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