世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.572

ミャンマー経済のゆくえ:「東アジアの奇跡」の仲間入りなるか?

岡本由美子(同志社大学政策学部 教授)

ジョナサン・リンチ(Global Institute of Collaboration 代表取締役)

2016.01.18

 経済の予測は極めて難しいものである。1974年.ハイエクとともにノーベル経済学賞を受賞したスウェーデンの経済学者であるミュルダールは.アジアの中で日本に続いて経済発展を遂げていくとすれば.フィリピンの他にミャンマーではないだろうかと予想していたようである(1)。しかしながら.その予測は全くあたらなかった。50年の時を経て.ミャンマーは少なくとも東南アジア諸国連合(Association of South-East Asian Nations: ASEAN)の中では最貧国となってしまった。

 しかし.2011年3月の民政移管以降.時を取り戻すかのように.経済が好転し始めた。世界銀行の世界開発指標によれば.近年.ミャンマーの年経済成長率は8パーセント台で推移している。2015年11月に行われたミャンマーの総選挙も予想以上にスムーズに実施された。アウン・サン・スー・チー党首率いる最大野党.国民民主連盟(NLD)の圧勝に終わったが.選挙後の混乱も生じていない。民政移管後の改革・解放路線が定着し始めたことには一定の評価が与えられるだろう。

 ではミャンマーは.2015年9月の国連サミットで採択された.2030年までのグローバル社会の目標である「持続可能な開発」を達成し.「東アジアの奇跡」の再来と呼ばれるようになるであろうか。もちろん誰もがそれを願っているが.残念ながら.難題も山積みであることもまた肝に銘じて置かなければならない。まず第一に.経済成長や経済開発の果実が広く国民に届くか否かである。軍事政権下においては.残念ながら.教育や保健・衛生といった社会開発が軽視される傾向にあった。このような社会開発の軽視は.人的資本形成や政治的安定に必要とされる中間層の形成への足枷となってしまう。1990年代の「東アジアの奇跡」の到来には.まさに両者の形成が不可欠であった。

 また.先進国のような所得再分配政策が整っていない途上国では.経済のグローバル化に伴って.都市部と農村部の格差がつきやすい。ミャンマーでもしかりである。ここ2.3年の同国最大都市ヤンゴンの経済的変化には目を見張るものがある。ヤンゴンにいると.ここが東南アジアの最貧国であるということをつい忘れてしまうぐらいの発展ぶりである。しかし.ヤンゴンから北に飛行機で1時間ほどいった中央乾燥地帯では.電気.水道.ガスといった経済インフラがなく.動力の中心は依然牛といった.農村風景が広範囲に広がる。このまま格差拡大が進めば.若者の農村離れが急速に進行し.農村地帯の荒廃に繋がってしまう恐れも十分ある。

 さらに.現在.ミャンマーにとって頭が痛いのは.環境問題の悪化である。環境基準を満たすような廃棄物処理施設.埋め立て最終処分場.又は.廃棄物のリサイクル技術が十分ないのみならず.それらの設置や導入を推進するような法律やその執行体制が確立されていないまま.経済開発が急速に進行してしまっている。その結果.都市でも農村でも.ごみ問題が深刻化している。放置すれば.住民の健康被害にも繋がっていくであろう。

 安倍政権が誕生して以来.日本のミャンマーに対する援助が再び本格化し.日本とミャンマー両国の関係の深化に大いに期待したい。現在.日本はミャンマーを企業の生産拠点として捉えて.電気.交通.工業団地といった経済インフラ建設のための援助に重点を置いている。もちろんそれも大切ではあるが.ミャンマーの持続的開発が可能となるような.キャパシティ・ビルディングに向けた国際協力の強化も今後.益々.重要になってくるであろう。

[注]
  • (1)Fabella, Raul V. (2012), “Inclusiveness and income inequality”, http://www.econ.upd.edu.ph/perse/?p=1088(最終アクセスは、平成27年12月30日)

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