世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3368
世界経済評論IMPACT No.3368

通商ガバナンスの行方:アフリカの視点から

岡本由美子

(同志社大学政策学部・大学院総合政策科学研究科 教授)

2024.04.08

 2024年度後半,4年に一度のアメリカの大統領選挙が行われる。その結果はアメリカ国内のみならず,国際社会に大きな影響を与えることは間違いない。戦後,国際貿易の支柱を成してきた多角的自由貿易体制(GATT-WTO体制)にも大きな影響が出ると考えられる。筆者は,2016年からコロナ禍の時期を除き,アフリカのウガンダに毎年,1〜2回,訪問している。直近では,2024年3月7日から16日まで滞在した。本稿ではそのアフリカの視点から通商ガバナンスの行方を考えてみたい。

 ウガンダのムセベニ大統領は,1986年に大統領に就任してから35年以上にわたって政権を率いている。そのムセベニ大統領が2024年1月に開催された,中南米やアフリカの新興国などによる国連の枠組み「77カ国グループ(G77)プラス中国」の第3回首脳会議において,キューバから引き継いで同グループの議長国に就任することが決まった。G77は,1964年の国連貿易開発会議(UNCTAD)の総会で設立が決まった。70年代には先進国優位の国際経済体制に対抗し,発展途上国の経済力を高めるべく,一致団結して新国際経済秩序の構築を模索した。90年代以降,急速にグローバリゼーションが進行する中,同グループの活動は停滞したが,近年,国際社会における中国やインドの台頭に伴って新興国・途上国の総称であるグローバルサウスの動きが活発となり,「77カ国グループ(G77)プラス中国」もGATT-WTO体制の今後の行方にある一定の影響力を行使していくのではないかと考えられる。

 しかし,ウガンダのムセベニ大統領は,近年,東アフリカ共同体(EAC)の拡大と深化にも力を入れている。EAC(注1)の歴史は古い。1967年に,まずは,ケニア,タンザニア,ウガンダの3カ国間で発足した。同じ年に成立し,その後の地域の安定と繁栄の基礎をつくった東南アジア諸国連合(ASEAN)とは異なり,EACは一度,1977年に事実上,解体してしまった。しかし,世界の他の地域で地域経済統合の動きが活発化する中,EACは息を吹き返した。21世紀になるとEACはまず原加盟国の中で新たに発足し,2010年には関税同盟が成立する。それに先立ち,2007年にはブルンジとルワンダがEACに加盟し,その後も,南スーダン(02016年),コンゴ民主共和国(2022年),ソマリア(2024年)と加盟国が徐々に増えている。WTOの多角的貿易交渉が停滞する中,EACが復活し,拡大と深化を遂げているのである。

 もちろん,多角的であれ,地域限定であれ,透明度が高い国際自由貿易体制を維持していくことは,メンバー国の安定的な発展のためには必要不可欠である。いわば,国際公共財のような存在である。しかし,2016年以降,筆者がウガンダ東部の良質なコーヒー産地として知られる地域を訪問してみると,小規模コーヒー農家が希求していたのは,自由貿易ではなくフェアトレードであった。ムセベニ大統領は1986年に大統領に就任すると,経済と政治の再建を最優先に掲げ,IMFと世界銀行の新自由主義に基づく構造調整融資を受け入れた。それによって,あらゆるレベルで貿易の自由化が行われた。もちろん,貿易の自由化政策を高く評価する研究(Akiyama 2021等)が存在する一方,貿易自由化政策の恩恵がウガンダに多数存在すると言われている小規模農家に必ずしも十分に行き渡っていないのではないか,とする研究(Okamoto 2020等)もある。国際NGOであるフェアトレード団体(注2)は,後者の認識に基づいて,フェアトレードを推進することになる。自由貿易同様,フェアトレードもその効果について疑問視する声もあるが,一定数の小規模農家の人々の希望の星となってきたことも事実である。

 アフリカのウガンダを例にとってみると,1990年代以降,経済のグローバル化が急速に進展すればするほど,実は,通商ガバナンスはより重層的になってきたことがわかる。2015年に国連総会で持続可能な開発目標(SDGs)が採択され,持続可能性の追求が求められるようになると,その傾向は益々強くなっていると言えよう(岡本 2023)。グローバル社会の不安定さが増す中,このような重層的な通商ガバナンスは今しばらく続くと考えられる。

[注]
  • (1)EACについては,同ホームページを参照。
  • (2)例えば,1997年,ドイツに本部が置かれたFairtrade Internationalが挙げられる。
[参考文献]
  • 岡本由美子(2023)「持続可能性を実現する通商ガバナンスのあり方:サステナブル認証制度の役割と今後」『世界経済評論』第67巻第1号,63-71。
  • Akiyama, T. (2001) Coffee Market Liberalization since 1990. In T. Akiyama, J. Baffes, D. F. Larson and P. Varangis (eds.) Commodity Market Reforms: Lessons of Two Decades, 83-120, The World Bank.
  • Okamoto, Y. (2020). Do Standards and Certificates Support Upgrading and the SDGs in Global Value Chains? The Case of the Uganda Organic Coffee Farmers’ Association. Doshisha Policy and Management Review 22 (1): 33-51..
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3368.html)

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