世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
第7次エネルギー基本計画:低い電力排出係数の意味するもの
(国際大学 学長)
2025.07.07
2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は,2040年度の電源構成見通しについて,複数のシナリオからなるベースシナリオと,単一のシナリオであるリスクシナリオを併記した。ベースシナリオを構成するのは,①「再生可能エネルギー(再エネ)拡大」,②「水素・新燃料活用」,③「CCS(二酸化炭素回収・貯留)」,④「革新技術拡大」の4シナリオであり,リスクシナリオに当たるのは,⑤「技術進展」の1シナリオである。
これら5シナリオの2040年度における発電電力量見通しと電源構成見通しを一覧すると,以下のとおりである。
- ① 11,500億kWh,再エネ50%,原子力20%,火力30%
- ② 10,600億kWh,再エネ51%,原子力20%,火力29%
- ③ 10,700億kWh,再エネ45%,原子力20%,火力36%
- ④ 12,000億kWh,再エネ48%,原子力20%,火力33%
- ⑤ 10,800億kWh,再エネ35%,原子力20%,火力45%
また,それぞれのシナリオが想定する2040年度の電力排出係数(単位はkgCO2/kWh)をまとめると,次のようになる。
- ① 全電源平均0.04,火力平均0.20
- ② 全電源平均0.03,火力平均0.15
- ③ 全電源平均0.00,火力平均0.08
- ④ 全電源平均0.04,火力平均0.18
- ⑤ 全電源平均0.13,火力平均0.31
ちなみに,2021年時点における日本の電気事業について見ると,天然ガス火力(コンバインド)の排出係数は0.47,石炭火力の排出係数は0.94であった。つまり,第7次エネ基が想定する2040年度の電力排出係数は,ベースシナリオ(①〜④),リスクシナリオ(⑤)を問わず,きわめて低水準であることがわかる。
これほどまでに低い電力排出係数が現実化するためには,2040年度までに,天然ガス火力への水素混入,石炭火力へのアンモニア混入,CCSの普及などが,大規模に進展していなければならない。しかし,第7次エネ基は,この事実について,まったく言及していない。そもそも,これまでのエネ基が明示してきた火力発電の燃料別構成見通しさえ明らかにしていないのである。
ここで想起する必要があるのは,リスクシナリオが,2040年度において,水素等,CCSなどの脱炭素技術の開発が進展していない場合に登場するシナリオだという点である。しかし,同シナリオ(⑤)の火力平均0.31という排出係数は,水素等,CCSなどの脱炭素技術の開発が相当程度進展していなければ,実現しえないものである。そこには明らかな自己矛盾が存在するのであり,そのことは,リスクシナリオそのものの信憑性への疑義を生じさせる。
さらに,第7次エネ基が提示したきわめて低い電力排出係数は,別の含意も有している。それは,今後,わが国で本格的に遂行される予定のカーボンプライシングが,かなり高水準なものになるという含意である。日本の多くのエネルギー企業は,現在,トン当たり数千円程度の二酸化炭素価格を念頭に置いて対応策を考えているようだが,第7次エネ基の電力排出係数見通しは,それが2万円レベルにまで達しうることを示唆している。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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