世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米国の個人消費支出の構造変化
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2025.07.07
個人消費支出のサービス化が進む
米国の個人消費支出においてサービス支出が占める比率は,1960年の46.5%から1980年には54.3%,2000年には63.7%,コロナ禍直前の2019年には68.6%と長期的に上昇してきました。コロナ禍の下での行動制限の影響などで2020年には66.9%に低下しましたが,その後再上昇し,2025年1-3月期には68.8%とコロナ禍前の水準を上回っています。
一方,非耐久財の支出比率は,1960年の39.7%から長期的に低下し,2025年1-3月期には20.4%となりました。耐久財支出比率は,1960年の13.8%から1973年には15.4%まで上昇しましたが,その後は景気循環に伴って変動しながら低下傾向にあります。2019年に10.6%まで低下した後,コロナ禍中の2021年には一旦12.4%まで上昇しましたが,2025年1-3月期には10.8%まで再び低下しています。
自動車・家具・家財消費支出比率の低下
耐久財支出の内訳を見ると,自動車やその部品と,家具や家電製品などを含む家財に対する支出の比率低下が顕著です。自動車・部品が個人消費支出に占める比率は1980年代後半までは概ね5~7%程度で上下動を繰り返していましたが,2008年のリーマン・ショック以降は,4%以下へと低下しました。コロナ禍のもとで一旦4%台に上昇しましたが,2025年1-3月期には3.7%と再低下しています。家具・家財の個人消費支出に占める比率は,1960年代には4%台後半であったものが,1990年からリーマン・ショック前までは3%前後となり,リーマン・ショック後は2%台半ばへ低下しました。2025年1-3月期には2.4%でした。大型の自動車や家電製品などの耐久消費財への支出にお金をかけるというかつての米国家計のイメージから,現在の個人消費支出の実態は乖離しているようです。
トランプ大統領は自動車に25%,洗濯機・乾燥機や冷蔵庫,食洗機,電子レンジなどの白物家電に50%の輸入関税をかけ,こうした製品の輸入を抑制して国内生産を促すことで製造業の復活を狙っています。しかし,耐久消費財に対する国内需要は長期的に弱くなっている上に,関税による価格上昇で買い控えも強まるでしょう。高率の輸入関税を賦課しても国内需要が弱い中では,米国の製造業の復活はなさそうです。
金融サービス消費支出比率の上昇が停止
サービス消費支出全体の比率は上昇していますが,その内訳は大きく変化しています。生活必需品的性格が強い住宅・光熱費が個人消費支出に占める比率は,17,18%程度で長期的に概ね横這いで推移しています。一方,ヘルスケア支出の比率は,1960年の4.8%から2000年には13.6%,2025年1-3月期には16.8%と上昇しています。裁量的支出の性格が強い交通,レクリエーション,外食,宿泊の支出の比率も,合計で1960年の10.9%から2000年には13.7%,2025年1-3月期には14.4%と上昇しています。
保険を含む金融サービス支出の個人消費支出に占める比率は,1960年の4.0%から2000年には8.0%まで上昇しましたが,そこで上昇傾向が止まり,その後はほぼ横這いに留まっています。2025年1-3月期は7.9%でした。個人向け金融サービスの提供は,全体的には,もはや成長産業とは言えないようです。金融のオンライン化や個人金融資産の累増によって個人の金融サービスの利用機会が増えていそうなことから見ると,意外に感じます。金融規制緩和による金融機関間の競争の激化や,通信,AIなどの技術革新によるコスト削減が,個人金融サービスに対する支出を抑制しているようです。金融サービスが生活必需品化することで,より安価なサービスの提供が求められるようになったということかもしれません。日本などでも同様の傾向が現れてきているように思われます。
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