世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.548

TPP大筋合意とエネルギー資源

武石礼司

(東京国際大学 教授)

2015.12.07

 2015年9月にTPP(環太平洋経済連携協定)が大筋で合意に達し,12カ国,世界人口の1割を占め,世界の経済規模の4割に達する大型の経済圏が設立される見込みとなった。

 この効果は大きく,特に,参加できなかった近隣諸国においては,なぜ自国が参加できなかったのか,今後,進む参加国内の一体感が高まる中で,不参加国においては疎外感を感じざるを得ない事態が生じている。韓国,中国,フィリピン,タイ,インドネシア,インドといくつもの国で,自国のTPPへの対応を巡って大きな議論が巻き起こっている。

 日本国内でのマスコミの報道を見ていると,単に牛肉が安くなるかどうか,乳製品の価格はどうなるかといった,身近な食料品価格の動向に注目するものが多くみられた。

 重要なのは,今後,TPP加盟国が経済圏としての一体化を進めていくということは,例えばEUに似たような各国が持つ主権を一部制限しつつも,それでも経済統合に向けた,規制の撤廃を進めていくことを意味しているという点である。

 さらに一段上の動きが生じるのだという点も理解しておく必要がある。EUにおいて統合度が増すとともに生じているのは,新たな規制をEU内で作るという動きである。

 こうした制度作りが必要となるのは当然で,一体化した市場がEU内に出来上がっていくと,例えばエネルギー分野では,統一された電力市場を規制するための制度設計が必要となっていく。

 TPPにおいても,域内貿易の自由化のいっそうの促進,投資・人の移動,サービスの相互参入の促進を進めていくと,今度は,EUで行われたのと同じように各国の独自の補助政策をできるだけ取り払うとともに,EU全体としての取り組みで見られたような補助政策(地域振興・農業振興)を各国ごとから,まとめてEU予算に集約化させ,EUの統合された予算の下で支出が行われていく事例も,TPP加盟国の経済統合度の向上とともに生じると予測されるのである。

 さらに,次のような事例に関する理解も重要となる。EUでは,エネルギーのEU地域を超えた遠方からの供給の確保に向けては,「欧州エネルギー憲章」が設定されており,1998年には発効している。

 EU諸国が中心となってまとめたこの憲章では,ソビエト連邦の崩壊後のエネルギー供給の不安定化を防ぐ目的から,エネルギー分野における市場原理の重要性を確認するとともに,エネルギー分野の貿易と投資という企業活動を世界的に活発化することが目指されている。この憲章には日本も加盟しており,参加国はEUを超えて世界に広がっている。

 この例からも明らかなように,エネルギー供給の確実性,資源開発を巡った紛争の発生を未然に防ぐためにも,エネルギー面での市場を共通にするという関係を文書として記述し,その共通市場での自由な取引を妨げるあらゆる動きに対して,EUの例に倣い,TPP加盟国として一致して抑制を求めていくことが,今回のTPP大筋合意が達成されたからこそ,見えてきたこととなる。TPPとしての,一段高い立場からの発言が,従来,各国がそれぞれ発言していただけでは得られなかった高いポジションから,今後,可能となっていくわけである。

 TPPには,第16章で競争政策が定められており,公正な競争の確保が各国に求められることとなる。TPPへの加盟を望む韓国においては,国が指導する中,電力会社は一社のみ(KEPCO),主要ガス会社も一社のみ(COGAS)で,海外からの液化天然ガス(LNG)の輸入は,電力会社分も含めてCOGAS一社が手がけており,しかも,国内の電力価格は政府が安価に抑えてきている。このように国の関与が目立っている状況が韓国にはある。

 TPPは,第17章では,国有企業・指定独占企業において,他国の企業への差別行為を禁止しているが,こうした規定を韓国が社会的に受け入れ可能なのかが危惧されるほど,韓国における産業への国の関与の度合いは高くなっている。

 さらにTPPでは28章で紛争解決に関する規定も設けており,加盟国間の問題がオープンな形で解決されることが期待できる。

 このように見てくると,エネルギー消費国としての日本にとり,TPPに加盟したことによるメリットはたいへんに大きく,一つの大きな市場に所属しているという点を背景としつつ,今まで以上に大きくなったTPPという商圏の中での勝ち組となることを民間の各企業は自由に求めていくべきであるということになる。

 TPPへの新規加盟を求める韓国,あるいは将来的には中国に対しては,産業・社会の構造改革を進めなければとても加盟できるレベルに達しないという点を,明確に示していくことが必要となる。日本の政治ポジションでの大きな後ろ盾がTPP加盟で得られたことを理解し,牛肉が安くなるかどうかを超えた議論を,日本のマスコミには期待したいものである。

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