世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
世界のエネルギー需給とトランプ政策の効果
(東京国際大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)
2025.05.19
世界のエネルギー需給状況
世界全体のエネルギー消費量は,1965年が156エクサジュールであったが,2023年には620エクサジュールまで58年間で4倍となった(Energy Institute, 2024データ,以下同じ)。2023年の内訳は,石油が32%,石炭が26%,天然ガスが23%,原子力が4%,再生可能エネルギーが15%である。化石燃料である石油,石炭,ガスの合計の比率は,1960年代の93%が,2023年では81%に低下しているが,エネルギー消費量が急増しているために,化石燃料の消費量としてはこの間で3.5倍となっている。
石油の消費量で見ると今日,世界で1日1億バレルを超えている。ドラム缶に8分目入れたものが1バレルであるが,それを,毎日1億本を超えて消費しているわけで,石油だけでこの量が消費されており,さらに石炭と天然ガスも消費されている。
再生可能エネルギーおよび原子力によるエネルギー供給も図られているものの,世界のエネルギー消費は依然として化石燃料に大きく依存しており,その比率は8割を超えているという点に注目する必要がある。
一方,再生可能エネルギーの供給量は増大しているが,日本の事例では,太陽光発電設備の導入事業者に聞くと,現在ではいずれの自治体を訪問しても,「もう導入されています」との返事を受け,自治体所有地,民有地など,南向きの太陽光導入の適地には,すでに導入されており,これ以上の導入にはメリットを感じていない。
しかも,太陽光発電施設で用いられる電力線の銅線が,窃盗団に狙われており,太陽光発電設備の周りは,厳重にフェンスと鉄条網で囲い,監視カメラを付けた施設が多くなっており,市町村の美観を損ねるとともに,地元の人々の自由な往来を妨げる結果となっている。
また,国内で郊外の駅を降りて山並みが見えるところを眺めた場合,あるいは,お城があるところで天守閣から見ると,緑の山肌の一部に太陽光パネルが設置されているのが見える場合も多くなってきている。せっかくの景観が台無しとなっている場合が多くある。
風力発電に関しても,日本においては風況が良いのは山の上,あるいは,東北,北海道などの海岸沿いか,さらに沖合となっており,陸上の風況の良い土地には風車をほぼ設置済みとなっている。陸上に関しては,1990年代からすでに風車設置した場所に,より大型の風車を建て直すしかないという状態が生じていた。
さらに,洋上風力の設置として着床式の導入が進められてきているが,一定程度の導入が進むと,あとは,コストが高い浮体式の導入に政府が補助金をいくら出すかの判断を迫られる状況となる。
トランプ政権の再登場による大変化
トランプ政権は,中国の一党独裁による国策としての産業育成,人権,領土拡張策等々の問題を変更させるために,まずは関税引き上げで,中国発の製造業サプライチェーンからの離脱を世界各国に促し,踏み絵を与えて引きはがす政策を実施している。
米国による次の政策は,人民元安政策を問題視して,「香港ドルを米ドルとペッグし,常時米ドルへの交換を可能とし,世界のマネーを中国内に取り入れてきた制度」の変更を求めると予測される。この交渉の中で,中国の制度や体制の変更が促されていく可能性がある。
太陽光パネルや,風力発電,電気自動車のように,中国が多額の政府補助金により世界市場を独占する勢いの産業分野に関しては,中国の利権構造に,日本を含め世界各国が巻き込まれてきた。地球環境問題よりもより大きな問題は,中国の「一帯一路」などの対外拡張,覇権主義の動きであり,中国の領土拡張,民族移動に取り込まれる危険性の存在である。
試しに,中国人留学生に,日本が移民政策をとり続けると何人くらい中国人が日本に来るだろうかと聞いてみると「たいへん,2億人は来る」との返事が返ってきた。
欧州ではすでに多くの国で,移民政策には「緩和策」から「引き締め策」への転換が,右派の政党が勝利することで達成されており,米国においてもトランプ政権の出現で,違法入国者の送還が行われている。
日本においても,人手不足に対しては,機械の導入,AI活用などあらゆる手を尽しながら,世界的に活躍できる企業を増やしていく必要がある。
現状では,エネルギー問題より優先度の高い問題として,中国の覇権・拡張主義が,世界では意識されており,WTO,RCEP等のグローバリズム尊重よりは,「米国の通商法301条類似の覇権主義(特に中国)に対抗する政策」を打ち出す必要が生じている。
日本のエネルギーについては,天然ガスへの依存を維持する方向で安定化を図る必要があると考えられる。
トランプ第2次政権の登場は,日本の政治と産業に,大きな構造転換を迫る絶好の機会と考えて,産業の着実な育成,競争力の強化に向けた取り組みを行う必要がある。
- 筆 者 :武石礼司
- 地 域 :日本
- 分 野 :国際経済
- 分 野 :国際政治
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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