世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
トランプの再登場とエネルギー・環境問題の大変化
(東京国際大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)
2025.02.17
トランプ政権の出現
米国でトランプ大統領の2期目が始まった。まずは,CIA,USAID(国際開発庁),NED(全米民主主義基金)といった政府(系)組織の活動停止,全職員の早期退職の勧奨が始まっている。今後さらに大きな動きが生じると予想されているが,その一方,私たちにとって,いろいろ示唆に富む情報も出てきている。例えば,USAIDは,日本のJICA(国際協力機構)と同等の組織と当方も理解していた。英国で言えばDFID(イギリス国際開発省),スウェーデンで言えばSida(スウェーデン国際開発協力庁)と同じような活動をしているに違いないと考えていた。
ただし,当方が途上国を訪問しても,Sidaなどは,特にきめ細かく養豚の排泄物のメタン発酵によるガスの家庭用への供給,稲わら発電など至るところで援助をしているのを見ており,JICAの支援もこれに続いていた。
一方,USAIDはあまり直接お目にかかることはなく,大規模な国際NGOに,USAIDは仕事を任せているのかと思っていた。
大規模な国際NGOとは,オックスファム,セーブザチルドレン,ワールドビジョン,カリタス,ケアなどであり,巨額の資金を持ち,専属の職員は途上国の首都に住み,いかにもエリート然として優雅な暮らしをしている人が多い組織であるのは当方も見聞していた。
ところが直近の報道によると,USAIDはCIAの下部機関として,その支援先は,政治的な運動を左右する資金の提供や,放送局等のメディア向け(BBC,NHKを含む)も多く含まれており,2010年から2012年のアラブの春,あるいは,2014年のウクライナでのマイダン革命の発生,あるいはその後のロシアのウクライナ侵攻の前と後にも,USAIDの資金が出ていたと報道されている。
さらに,USAIDからは,中国の武漢研究所への資金供与があったことも報道されている。
このように政治面で,今まで隠蔽されていた事項がたくさん明らかとなると,米国民主党のバイデン,さらに遡って,オバマ,クリントン各政権などにおいて生じた様々な事件において「工作」があったことが明らかとなるに違いない情勢である。
大きな変革と備え
政治面での多大の「仕掛け」が存在したことが明らかとされると,世界全体のシステムや仕組み・制度なども含めた見直しと新たな世界的な取り組み体制の整備が必要となる。
現在最も強硬に米国に対抗する姿勢を明らかにしているのは中国である。中国はBRICSの5カ国への新規加盟を誘っており,2024年1月には,エジプト,エチオピア,イラン,UAEが加わり,2025年1月にはインドネシアが加わっている。中国は,自国通貨の元が,ドルを上回って世界の決済通貨となることを目指している。
また,中国は,トランプ政権が関税を課すことをディールの手段とすることをWTOに反するとして強く批判している。ただし,中国が一旦決めた制度を覆すことは良く生じている。中国が2001年にWTOに加盟するに際しての条件は,2007年までには自国の金融部門を外資に開放するという点であった。しかし,周知のように,現在に至るも,中国は,外資に対する金融業の自国参入を稀な例外を除き許していない。自国内の金融市場の開放をすると一党独裁体制を維持できないことを中国政府は重々承知している。中国は,輸出と自国向け投資で得られる外貨は,すべて中央銀行が回収し,その外貨を後ろ盾として,人民元を発行して,漸く自国通貨の下支えをしている脆弱な立場にある。現在,ロシアが中国に輸出する石油代金は,人民元建てでロシアは受け取ると,直ぐに香港でドルに交換している。
ドル決済に代わって中国の人民元による決済が世界で一般的となるかは,エネルギー取引の動向を考える際に極めて重要な論点であるが,中国内の金融市場が外資に開放されておらず,人民元価格も準固定の管理通貨であり,かつ,海外で人民元が用いられず,海外取引市場も存在しないため,人民元がドルの代わりに世界中で広く用いられる可能性はない。人民元が使われる場は,中国が輸出した分と輸入した分のどちらか小さい方までの物々交換の決済用となる。
中国が進めてきた一帯一路政策も世界各地で行き詰まっており,例えば,アルゼンチンのように,国営の電力,石油会社が共に中国にコントロールされていた状態から,脱却が進んでいる段階にある。
今後の展望
日本は,今後は,失われた30年から脱し,イノベーションの発信地となり,米国が要求する国外投資は程ほどにして,国内投資を充実し,教育・産業の活性化に取り組むべきである。そして,米国という,パリ協定を離脱し,CO2の縛りを無くした国を最大のパートナーとして,EUの2050年CO2排出ゼロ目標から,より緩和した政策の導入を世界的に合意させるだけの強さを持つ国となることも重要である。国の制度,政治家の新陳代謝も必要であることも明らかと言える。
- 筆 者 :武石礼司
- 地 域 :アングロアメリカ
- 分 野 :国際経済
- 分 野 :国際政治
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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