世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国におけるESGの発展現状と将来展望
(元金融機関 エコノミスト・東京大学 学術博士)
2025.12.01
今年9月下旬に開かれたニューヨークで開催された「国連気候サミット」でビデオ講演を行った習近平国家主席は,2020年の国連総会で打ち出した中国のカーボンニュートラルの目標(二酸化炭素の排出量が2030年までにピークを迎え,2060年より前に実質ゼロを実現するよう努力する)を踏まえて,新たに前向きな目標を掲げて中国の国際協調の姿勢と気候変動への揺るぎない方針を示した(注1)。その背景には,近年における中国のカーボンニュートラルの政策効果と産業・企業及び社会を巻き込んだDX・GXの取り組みの進展が挙げられる。中でも,欧米諸国に比べて出遅れたESG(環境・社会・企業統治)の取り組みも,グリーン金融が重要手段の一分野として軌道に乗り始めたことが注目に値する。
中国のESGに関する政策展開は,グリーン金融の発展を促進させる政策の一環としても受け止められるが,数多くの施策の中でESG投資の制度整備とシステム構築を図るための重要政策が2018年半ば以来多数施行されてきた。この期間は国内外とも親和性のあるSDGs(持続可能な開発目標)と・カーボンニュートラル政策の強化促進時期に当たっており,金融業の主管部門を中心に重要なESG推進策を展開してきた。2023年4月には注目の「国信ESG評価システム」が公表され,ESG投資市場の育成を支えている。
2018年以降の制度整備を受けて「情報開示→制度化→実務定着」へと移行し,2024~2025年に入って政策主導と市場需給の両輪で加速している。上場企業の開示率やESG評価での上方シフト,新エネルギー領域の急拡大,AIやデータ技術を活用した運用効率化とMRV(測定・報告・検証)強化が見られている。
中央政府と監督当局が,上場基準や審査枠組みにおいてESG開示の義務化を進めているため,企業は「自発的」開示から「義務的」対応への移行を進めている。また,欧米のCBAMやCSRD等の国際規制との連動(EUのタクソノミーとの相互運用も開始)を意識しつつ,中国は地域特性を織り込んだローカライズ方針を打ち出していることもあり,上場企業のESG報告率やMSCI評価での向上が観察され,特に新エネルギー・ハイテク企業が評価の先導役となっている。
中国では近年,政府による規制強化と企業の自主的な取り組みの両面からESG戦略と投資活動が活発化している。政府は国際的な基準を参考にしつつ,独自の社会経済状況を考慮したESG戦略を推進している。
「環境(E)」については「ダブルカーボン目標」,つまり2030年までのカーボンピークアウト,2060年までのカーボンニュートラルを掲げ,グリーンで低炭素な発展を力強く推進している。情報開示の要請として上場企業に対して,炭素排出量や汚染物質排出量などの環境関連情報の開示を義務付ける動きも強化されている。「社会(S)」においては人民中心の発展モデルを掲げ,「共同富裕」の実現を目指す中で,農村部の活性化や地域格差の是正といった社会課題の解決をESG戦略に組み込んでいる。「ガバナンス(G)」に関しては,国際競争力を高めるため,企業統治の健全性向上に重点を置いており,情報開示の義務化に向けて上海,深圳,北京の各証券取引所の上場企業に対しESG関連情報開示のガイドラインを提示している。地域レベルでもESGの発展と促進に資する研究評価も見られ,自国の特性にあった更なる有益な取り組みも見られている。
そうした中で,とりわけ発展が目覚ましいのがグリーン金融だ。ESG投資を含むグリーン金融市場は急速に拡大し,2024年には40.31兆元(約5.6兆米ドル)に達している(注2)。顕著に増加したのはESG基金の本数と金額である。2025年6月30日時点で,中国のESGファンドは372本に達し,総投資規模は3013.78億元となっている。特に2022年から2025年にかけてESGファンドの数は急増傾向を示しており,3年間の累積増加率は約61%となっている。
他方,ESGの発展には超えるべき課題も多くある。例えば,スコープ3(バリューチェーン全体での温室効果ガス排出量)の開示の遅れや,開示情報の質がまだ低水準にとどまっていることに加え,企業や組織が,虚偽の情報で製品や活動をエコフレンドリーと偽る,いわゆる「グリーンウォッシュ」の存在も指摘される。また,中国独自の発展目標がESG評価に組み込また国際的な基準とは異なるアプローチも問題視されることもあり,国際基準とローカル要件の整合や,短期的な規制変動による企業負担なども課題となっている。ただこうした問題は改善方向にある。特に資本市場の連携拡大によりグリーン商品やMRV対応を通じて「実効的な減排」を示すことで資金コスト低減と市場評価の向上が期待される。これにより企業は社会的信用と市場価値が増強され,ビジネスや投資環境の改善にもつながる。無論,COP30でも世界最大の二酸化炭素排出国である中国に対する温暖化ガス(GHG)の排出削減目標(NDC)の引き上げ要求は強く,今後も産業・社会を主とする脱炭素への努力が求められる。
また政府も気候変動対策と経済成長を両立させる「グリーン化」=GXを強力に進めており,今後もESG関連の法規制や投資は拡大していくと予想される。2026年からは400社以上の大企業を対象とした包括的なESG報告要件が導入されるなど,さらなる規制強化が見込まれる。日本企業にとってもサプライチェーンに深く関わる中国企業のESG動向は重要であり,中国市場での進化する規制や基準への対応が不可欠だ。また,AI技術やデータの応用によるESG事業の推進や欧米日などのESG先行企業との国際交流協力を重視している中国企業とのESG投資の協業やビジネス連携も今後増えてくるであろう。
[注]
- (1)具体的な数値目標として2020年時点で16%だったエネルギー消費に占める非化石燃料の割合を,2035年までに30%以上に高め,風力発電と太陽光発電の設備容量を同年比で6倍を上回る計3600ギガワットに増やすと表明された(「日本経済新聞」2025.9.25)。
- (2)グリーン金融の発展において近年環境債(グリーンボンド)の発行額も顕著に拡大しており,今年10月下旬時点ですでに史上最大1018億ドル(前年同期比92%増)に達し,世界全体の20%を占める最大規模になっている「日本経済新聞」(2025.11.5)。なお,ESGを唱導する国連PRI(「責任投資原則」)への中国署名者数の増加も挙げられ,2023年10月時点で138に達しており,日本を抜いて世界で2番目に多い数となっている。
[参考文献]
- 邵永裕「中国におけるESGの発展現状と将来展望」,一般財団法人・外国為替貿易研究会『国際金融』(2025.11.1)。
- 邵永裕「中国のグリーン金融の発展と展望」,一般財団法人・外国為替貿易研究会『国際金融』(2024.6.1)。
- 白井さゆり『カーボンニュートラルをめぐる世界の潮流:政策・マネー・市民社会』文眞堂,2022年7月
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