世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4110
世界経済評論IMPACT No.4110

米中覇権争いとトランプの米中“G2”の意味

平川 均

(名古屋大学 名誉教授・国士舘大学 客員教授)

2025.12.01

 本年10月30日,トランプ大統領と習近平国家主席による米中首脳会議が,韓国釜山の空軍施設で開かれた。トランプ大統領は空港着陸の1時間前に機内から自らの交流サイト「トゥルース・ソーシャル」に「G2が間もなく始まる」,また首脳会談終了後には会議を絶賛し「素晴らしいミーティングだった」,「10点満点の12点」だったと投稿した。翌日には米国防長官P. ヘグセスも「歴史的な“G2ミーティング”」と呼んで,Xに投稿した。だが,米国政府はこれまで米中関係を“G2”と呼んだことはない。トランプが“G2ミーティング”と表記したことにどのような意味があるのだろうか。

 世界の様々なメディアや研究者が,トランプのG2の意味を探っている。米国のローカル紙に載せられたディディ・タンの署名記事が,インドや日本を含んで世界の様々な報道機関に転載されているが,その記事はG2をトランプ大統領の「お気に入りの新語」(new favorite term)と表記し,中国を特別扱いして世界を米国一極から米中二極へと移行を意味するものであって,その影響は米国の同盟国に不信感を抱かせると予想する(注1)。BRICSのメンバー国で中国に続く経済大国であるインドの日刊紙は,トランプが米中首脳会談にG2を使用したことは米中間のパワーバランスの変化を示し,Quadメンバーであるインドの世界的位置付けに深刻な影響を与えるとして,「インドの世界戦略が試されている」と報じた(注2)。

米中パワーバランスとG2論

 “G2”あるいは”G-2”は,“Group of Two”の略である。米中間の枠組みとして最初に提案したのは米国のシンクタンク,ピーターソン国際経済研究所のF. バーグステンで,2005年である。提案の背景は次のようなものであった。米中間は,米国が世界最大の貿易赤字で債務国,中国が貿易黒字で外貨準備国の関係にあり,また米国が先進国のリーダー,中国が新興市場/発展途上国のリーダーの関係にもある。米中2国は,緊密に連携して世界経済への効果的なリーダーシップを果たすことが求められている。G2枠組みが生まれれば,G7/8,G20の非公式組織やIMF,WTOのような国際組織との緊密な連携に役立つ(注3)。

 同構想は米大統領補佐官(当時)Z.ブレジンスキーに受け容れられブレジンスキー・バーグステン構想として注目されたが,特に米国外で既存秩序への挑戦として受け止められ,米政府の構想にはならなかった。2008年に米国はサブプライムローン危機が起こり,世界経済は金融危機に沈んだ。対照的に,中国は4兆元の内需拡大策を講じて世界金融危機を救済する側に回った。G2論が再び話題に上がったものの,2009年段階の中国は世界的な主導権をとることを警戒しており,同調しなかった(注4)。とは言え,中国は2010年には日本のGDPを抜いて世界第2位に浮上し,いよいよ世界の経済大国となっていく。それは,中国の経済・軍事両面での大国化であった。

 こうして2010年代には中国の側からの対米G2アプローチが生まれる。2013年3月に国家主席に就任した習近平は同年6月に訪米し,オバマ大統領(当時)との2日間にわたるサミットを行った。この会談で彼は,「太平洋は米中両大国を受入れるに十分な空間がある」と述べて,米国が中国の軍事的・経済的な台頭を認める「新型大国関係」の受け入れを求めた(注5)。オバマが拒否したその提案が,中国による最初のG2の要求であった。習は,G20サミットが中国・杭州で開催された2016年9月にもオバマ・習首脳会談で「世界経済の第1と第2の経済国として果たすべき責任がある」として,米国に「米中の新型大国関係の建設」を提案している(注6)。

 2017年には米国に第1次トランプ政権が誕生し,オバマ政権の後半に始まっていた米中間の不信と対立が一気に悪化していく。対立は,トランプ政権の下で貿易赤字から中国の産業政策,先端技術盗取などに広がった。18年3月からは米中貿易戦争が始まった。同年7月~翌年9月までに4弾にわたる対中追加関税がトランプ政権により課せられ,中国も報復関税でそれに対抗した。2020年の米大統領選を控えて19年末に「第1段階の合意」が成立し20年1月に署名されたが,正にその1月に中国発の新型コロナ感染症パンデミックが米国を襲った。それを契機に,米中対立はいよいよ覇権争いの様相を濃くしていく(注7)。

 米中対立は,2021年からバイデン政権に引き継がれる。コロナ・パンデミック下の同年11月にはバイデン・習首脳会談がバーチャルで開かれた。23年11月にはサンフランシスコで対面の会談が実現した。会談では軍事関連の意思疎通,AI分野の協力などが合意されたが,習の主張は一貫して,米国は中国を「抑圧または封じ込め」をしてはならない,「地球は中米が共存するに十分に大きい」というものであった(注8)。ただし,この会談を終えてバイデンが繰り返し述べたのは,「彼は国家を運営する者という意味で独裁者だ」との習の印象であった(注9)。ここで注目されるのは国際環境の変化もあるが,習の対外ガバナンス認識が太平洋から地球に大きく広がっていることである。

トランプのG2とその影響

 再び米国から発せられたトランプ大統領の“G2”は,何を意味するのだろうか。彼がこの言葉の来歴を知っていたかどうかは分からない。だが,その用語は中国からすれば,米国が中国とその指導者を対等かつ特別の世界の指導的国家だと認めたことに他ならない。だがもしそうなら,インドのジャーナリストが危惧したように同国はもちろん,日本,韓国,そして台湾,アジアの国際関係への影響は大きい。

 釜山の習との首脳会談で終わるトランプの5日間の東アジア諸国歴訪の外交は,強権的なトランプ外交の縮図であったと言っていい。BBCのトランプ同行記者のアンソニー・ザーカー北米特派員の報告は興味深い。米国内では「王は要らない」のデモがあるのと対照的に,最初の4日間は気まぐれなトランプの歓心を買おうとするマレーシア,日本,韓国によってまるで王様の如くもてなされた旅であった。高市首相はノーベル平和賞の候補に推薦するとさえ約束した。だが,最終日の米中会談は釜山の飾り気のない軍事施設内で行われ,トランプが会議は「大成功」だったと絶賛したものの,合意の内実は乏しい。4月以降の米中対立,すなわち米国が中国製輸入品の関税引上げなどで威圧し,中国は農産物の輸入停止,レアメタルの輸出規制などでそれに対抗する関係が,1年延期されただけである。台湾問題は触れられもしなかった。トランプの東アジア諸国訪問の5日間は,米国の力とその限界が示された外交の旅だったと総括できる(注10)。

 トルコの国営通信社のアナドル・エイジェンシーは首脳会談後の中国の対応として外交部報道官郭嘉昆の発言に注目している。それは「中国は真の多国間主義(Multilateralism)を実践し続け,他国と共にWTOを核とする多角的貿易システムを支え続ける」というものである(注11)。トランプは習との米中会談が終るや否や,翌日に始まるAPECサミットを欠席して帰国の途に就いた。彼の作ったAPECの空白を埋めたのは習近平である。実際,先送りされた案件を米国は調整できるか,先を読むのは難しい。

 米デラウェア大学教授のM. カーンは,「新しい世界秩序の夜明け」にわれわれは立たされていると捉える。釜山での首脳会議(G2)でトランプは対中関税を下げたが,ブラジルとインドの関税は最高率の50%を課されたままだ。その他の国々も高い関税を課されているだけでなく,米製品の輸入を強要されている。しかし中国は例外である。EU,日本,韓国の同盟国は多大な対米投資を約束させられ,米国の同盟国は今や米国の「従属国」である。「習との会談をG2サミットと位置付けることで,トランプは効果的に世界秩序を再定義した」ことになる。それがM.カーン教授の結論的主張である(注12)。

 第2次トランプ政権が誕生して間もなく1年,彼の統治の特徴が浮き彫りになってきたように筆者には見える。ひとつは,独裁的性向と対外拡張の帝国主義的性向である。彼の高関税を武器にする政策も含めて,1897年誕生の第25代米大統領T. マッキンリーの崇拝に準えて「プロジェクト1897」と呼ぶことができる。もうひとつは,彼が好む“ディール”に関わる特徴である。彼は脅しの効かない国とは「ボス交願望」が強い。プーチンと習近平との直接交渉への願望はとりわけ強い。習とプーチンを特別扱いする外交構造は「ヤルタ2.0」と呼ぶことができる(注13)。

 ちなみに,マッキンリー政権は米西戦争でスペインをキューバから追い出し,プエルトリコ,グアム,さらにフィリピンも領有して,米国を帝国主義の国に変えた。トランプもそれに倣ってカナダを第51番目の州と呼び,パナマに米籍船舶の運河通航料の無料化,デンマーク領グリーンランドの買収,パレスチナのガザ地区のリゾート化などを次々と表明している。大統領就任演説では,北米最高峰のデナリ山の旧名マッキンリー山への変更を宣言し,さらに領土の拡張をも公言した。

 トランプの習との直接交渉願望は,第1次政権時の米中貿易戦争で既に顕著に見られた。ロシアのプーチンとの直接交渉も同様である。プーチンが起したウクライナ戦争の調停で,彼はロシア寄りの調停案をウクライナに飲ませようとしてきた。2月のホワイトハウスでのトランプ・ゼレンスキー会談の決裂は,世界に報道された。11月に示された停戦案でも,ウクライナ領土のロシアへの割譲が停戦条件に入れられている。釜山のトランプ・習会談での合意も,米国の同盟国やグローバル・サウスの国々,そして人々に犠牲を強いるものである。一方的に,利己的かつ「米国ファースト」のみを追求する外交である。

 トランプの米中“G2”外交は,世界が「ヤルタ2.0」の世界秩序に移行する可能性を生んでいる。もちろん,彼のG2の試みが上手くいくか否かは分からない。中国の対応はより多面的である。“G2”と「ヤルタ2.0」に抗する様々な試みがグローバル・サウスやヨーロッパ,アジアなどの国々によっても,今後追求されるだろう(注14)。だが,トランプがこの路線を選ぼうとしていることは,十分に認識しておく必要がある。

[注]
  • (1)Tan, D. (2025) G2 or not G2: Trump’s new favorite term for US-China relations carriers a lot of history’s baggage, The Rapid City Post, November 3, 2025, AP News, Nov. 4, 2025, The Economic Times (India), Nov. 4, 2025, Japan Wire, Japan Today 2025.11.6, etc.
  • (2)Banerjee, A. (2025) Trump’s ‘G-2’ turn with China tests India’s global strategy, The Tribune, Nov.5, 2025)
  • (3)Bergsten, C. F. (2009) The United States-China economic relationship and the strategic and economic dialogue, Paper presented at Subcommittee on Asia, the Pacific and the Global Environment Committee on foreign Affairs, US House of Representatives. September 10.
  • (4)Bush, R. C. (2011) The United States and China: A G-2 in the making? Brookings Commentary, October 11. Zeng, M. (2025) Trump and Xi revive the ghost of the G2, The Diplomat, October 31. Zengによれば,2009年に温家宝首相(当時)が「2国あるいは大国の1つの集まりが世界のあらゆる問題を解決することはできない」と述べている。
  • (5)日本経済新聞, 2013.6.10。
  • (6)中華人民共和国駐日本大使館(2016)「習近平主席米オバマ大統領と会談」(G20杭州サミット・トピックス),9月4日。
  • (7)Hirakawa, H. and F.C. Maquito (2024) The dynamics of Asian economic development: Understanding Asia and its ways forward, Springer, Chapter 2.
  • (8)Ministry of Foreign Affairs (China) (2021) President Xi Jinping had a virtual meeting with US President Joe Biden, Nov. 16. Xu W. (2021) Xi: World is big enough for China, US to develop individually and collectively, China Daily, Nov. 17. JETROビジネス短信(2023)「習国家主席がバイデン米大統領と会談,軍事関連の意思疎通再開,AIなどでも協力も」,11月17日。
  • (9)BBC News (2023) US and China agree to resume military communications after summit, November 16.
  • (10)Zurcher, A. (2025) Trump’s Asia tour sees deals, knee-bending and a revealing final meeting, BBC News, October 31.
  • (11)AA (2025) On Trump’s ‘G2,’ China says it ‘will continue to practice true multilateralism’, October 31.
  • (12)Kahn, M. (2025) Trump’s G2 moment: Dawn of a new world order? The Diplomat, November 07.
  • (13)平川均(2025)「トランプ2.0下の世界とグローバル・ガバナンス-「3つの世界」諸論の検討-」中国・南開大学世界近現代史研究中心・日本研究院主催『「百年来世界的変局与展望」国際学術検討会』(8月22-24日)提出論文。なお,「プロジェクト1897」はThe Economistの編集部が第2次トランプ政権の誕生に合わせて,その性格を示すために用いた表記である(The Economist, January 25, 2025)。「ヤルタ2.0」は2025年2月がヤルタ会談から80周年に当たる。当時の会談の場となったクリミア半島ヤルタの宮殿のアート・ギャラリーに展示された作品名に由来する。日経新聞編集委員中沢克二はその作品を「強権で知られた3人の指導者が並ぶ。『ヤルタ2.0』の足音が聞こえてきそうな構図」だと紹介して,「ヤルタ2.0」の世界秩序について論評している(日経新聞, 2025.2.19)。なお,ヤルタ会談の写真は左からチャーチル英首相,ルーズベルト米大統領,スターリンソ連首相が並ぶ。作品「ヤルタ2.0」では,中央にプーチン,左右にトランプ,習近平の3人が並んでいる。その作品は,ロシアに一方的に編入されたクリミア半島のヤルタにあることを考えれば,プーチンの外交戦略を示すものとの解釈ができる。
  • (14)同上,平川均(2025)。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4110.html)

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