世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.961

新たな成長段階を迎えた中国経済と日本企業の商機

唱 新

(福井県立大学 教授)

2017.12.04

 中国共産党第19回全国大会における習近平の政治報告では,「中国の発展は新たなスタートに立って,中国の特色ある社会主義は新たな新時代を迎えた」と宣言した。その表現は抽象的でわかりにくいと良くいわれているが,実体経済に目を向けると,中国の経済成長は確かに従来の大量かつ安価な労働力に依存した量的拡大段階から研究開発や技術進歩による質の高い経済成長へと転換しつつあるのは間違いないことである。その新たな成長時代を象徴するのは中国における高速鉄道,AI(人工知能),EC(電子商取引),EV(電気自動車),スマート製造などの新しい産業及び生産技術が飛躍的に成長しつつあることである。

 AIについてみると,今年の7月に採択された「国家AI産業発展戦略」では,3段階で世界をリードするAI大国になろうという次のような戦略的目標を示した。

 即ち2020年までの第1段階では,AI核心産業の出荷額を1500億人民元(2.6兆円)に,関連産業の出荷額を1兆人民元(17兆円)に育てること,2025年までの第2段階では,製造,医療,都市,農業,国防へのAI技術の普及により,AI核心産業の出荷額を4000億人民元(6.8兆円)に,関連産業の出荷額を5兆人民元(85兆円)に拡大すること,そして2030年までの第3段階では,AI理論,技術,応用技術などの面で,世界をリードする水準に引き上げ,世界の主要なAI・クリエーション・センターに育てあげるなどにより,AIを生産・生活,社会・ガバナンス,国防など各方面に対して,深く大きく浸透させ,コア技術,カギとなるシステム,支援プラットフォーム,AIを応用した産業チェーン,ハイエンド産業群の形成により,AI核心産業の出荷額を1兆元(17兆円)に,関連産業では10兆元(170兆円)を超える規模に育て,アメリカ並みのAI大国になろうとしている。現在,バイドゥ,アリババ,テンセント,レノボ,華為,京東など,新興企業の飛躍的成長の勢いを見ると,その戦略的目標の実現はほぼ間違いないといえよう。

 この経済成長パターンの変化をもたらしたのはR&Dによる技術進歩の進展と教育水準の向上である。まず,R&Dについてみると,2000年から2015年までにGDP(名目)が約7倍に増加したのに対し,研究開発費支出は,約16倍増の1兆4170億人民元(24.1兆円)となり,GDPに占める比率は1%未満から2.1%に上昇した。その成果として,中国の科学技術の学術論文数,特許の取得数などは世界先進的な水準に達し,宇宙産業,高速鉄道車両,スーパーコンピュータ,海洋開発など,多くの分野での技術開発が急速に進展した。

 同期間の教育経費も8.5倍増の3兆2806億人民元(約55.8兆円)に拡大し,GDPに占める比率は3.8%から5.1%に上昇した。教育経費の支出増は教育の質と量をともに高めることにより,人材層に厚みを増して,「人口ボーナス」が失われた中国にとって,新たな経済成長を支える源泉ともなっている。バイドゥ,アリババ,テンセントなど中国の新興企業では,経営者から技術者までほとんどが博士号,修士号を持ち,留学経験も豊富な30代,40代の若者が中心である。この質の高い人材層の形成は中国の新たな「人口ボーナス」となり,中国経済の長期かつ持続的な成長を維持するための巨大なパワーとなっている。

 中日関係に目を転じると,政治関係はぎくしゃくしているが,経済の面では多様な絆でつながっているため,中国の経済成長ダイナミズムは自然に日本にも広がっている。現在,ファナック,安川電機,ABBジャパンなど,日本の多くの大手ロボットメーカーは,中国におけるAI産業の台頭を狙って,中国向けの事業拡大に積極的に取り込んでおり,その勢いは裾野産業まで広がりつつある。

 日本の企業はAI産業の製造措置及びコア部品の分野では強みを持っており,中国における新しい産業の発展は日本の企業に多くの商機をもたらすこととなる。こうした巨大な中国市場を抜きにして,日本経済の将来成長は考えられないであろう。

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