世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国経済の強靭性と持続性
(福井県立大学 名誉教授)
2024.01.22
国家統計局の公表によると,2023年の中国経済は5.2%増の126兆人民元(17.5兆ドル)であり,世界経済成長率(3.0%増)を上回っている。2019−23年の5年間を振り返ってみると,中国経済はアメリカの制裁による輸出減,コロナ禍による個人消費の低迷,不動産不況による経済不振などに見舞われたものの,GDP総額は約3.8兆ドル増加した。これは,2022年のインドのGDP(約3.5兆ドル)を凌駕するもので,換言すれば,5年間で一つのインドを生み出せる経済の強靭性を表している。
中国経済には不動産価格の下落,アメリカの経済制裁などのマイナス要因はあるものの,経済成長を促進するプラス要因もあり,プラス要因がマイナス要因を上回れば経済は成長する。足下の中国経済はまったくその通りであり,そのプラス要因は以下の通りである。
1.強い個人消費は経済成長を支える柱となっている
2023年の経済成長への貢献度を経済三要素でみると,設備投資は28.9%増,最終消費支出は82.5%増,サービスと物の純輸出は11.4%減であり,中国の経済成長の8割以上は国内需要に牽引される「内需主導の成長パターン」である。
実はコロナ禍の影響で,2022年の最終消費は0.2%減の44兆人民元に低下したが,2023年には6.4%増の47兆人民元に急回復し,経済成長の下支えとなった。
自動車,国内観光旅行,不動産販売は中国の個人消費を支える三本柱となっているが,2023年は不動産市場の低迷で住宅販売は低下していたが,自動車販売,国内観光旅行は個人消費を拡大させた。今後,個人収入の増加に伴って,国内需要はさらに拡大する見通しとなっている。
2.強い製造業は経済成長の基盤となっている
中国は製造大国として,すべての産業を揃えている。太陽光発電,風力発電,電気自動車,車載電池,AIなどの新しい産業,すなわちネットワーク経済,デジタル経済,グリーン経済などの新興経済は勿論,それだけではなく,自動車,鉄鋼,機械,石油化学,造船などの基幹産業の高度化も着実に進行している。これに巨大な国内市場を加え,際立って優位な国際競争力を示している。中国は製造大国から製造強国にまい進しており,それは中国経済の強靭性をさらに高める産業基盤となっている。
3.イノベーションの躍進
イノベーションは中国経済成長の重要な原動力である。2023年のR&D支出は3.3兆人民元となり,前年比0.08ポイント増加した。それゆえ,中国は航空・宇宙,量子科学,製薬,ライフサイエンスなどの領域で大きな進歩が見られるだけではなく,産業構造のハイテク化とAIが進展した。
設備投資に目を転じると,1.5%しか延びていないが,その中で製造業の技術革新投資は3.8%,ハイテク産業投資は10.3%増加し,製造業のハイテク化への投資は着実に進んでいる。
実は中国の製造業は,既に衣料品,靴,カバンなどの労働集約型産業による加工時代を卒業し,現在はミドル技術を中心に規模の経済性を発揮している。その意味は中国の工業製品は先進国に比べ,技術レベルで劣っても,コストは安い。一方,他の新興国と比較すると,技術レベルも高く,コストも安い。これゆえ,中国は世界経済で独特の競争優位性を持ち,多くの産業が世界一の規模となり中国経済の長期的かつ安定的な成長を保つ源泉となっている。
一方,不動産不況についてみると,それは不動産価格の下落だけではなく,地方財政と地方債務,銀行債務,建築機械,建築材産業からの影響が大きいといわざるを得ない。しかし,不動産部門は中国経済の1/4しか占めていないので,実体経済がしっかり動いていけば,需要も増え,今後問題を解決することができるであろう。
2024年の中国経済は,生産能力過剰,有効需要不足,アメリカの制裁,経済リスク増大などの諸問題を抱えながらも,前年並みの成長は維持できると見込まれている。
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