世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3840
世界経済評論IMPACT No.3840

心理学学位取得者の社会における就業機会の創出:心理カウンセラー職の社会市場開発

白藤 香

(SPCコンサルティング株式会社Labo 所長)

2025.05.19

 大学院で修士・博士号取得者の活躍機会がJOB型人事制度導入によって拡大しようとしている。本稿では文系分野である心理学の学位取得者に焦点を当て,海外と比較し日本の社会で心理専門職の活躍機会が少ないことを問題提起し,2020年から社会市場での活躍機会の創出と人材育成の拡大に取り組んだプロセスと結果を実践レポートとして記す。

◆問題意識

 北米や欧州地域では,心の整理がつかないなどの悩み事抱える人は心理カウンセラーにアポイントを取り,問題解決を図ることが多い。これは日本社会で占いに頼る状況と似ているかもしれない。相談事案は,男女関係の破たんや離婚など家庭問題,職場での人間関係,LGBTQなど少数派の心の悩みなどで中身は千差万別だ。しかし,結果として精神内面の正常な機能と営みを取り戻すことを目的としたものであり,心理カウンセラーの果たす役割が大きい。

◆日本社会で心理カウンセリングが普及拡大しなかった理由

 2000年初頭,行政市民サービスの中に法律相談とカウンセリングは存在していた。しかし,当時の手法では傾聴に終始し,結論が得られなかった事例が多数あったため,その機能と効果が社会において十分に認識されなかった。

◆変化する社会ニーズ

 以後20年の間に,就業者のメンタルヘルスが増え社会問題となり,産業専門医や心理カウンセラーが職場に配置されるケースが増えた。現在は国際結婚も増え共同親権法が成立し,夫婦関係の修復や離婚に伴う家族カウンセリングや教育現場における児童・学生や教師に向けたスクール専門カウンセリングの導入など,ニーズに基づく対応は多種多様になっている。

◆心理カウンセラー専門職の種類

 現在,学位取得要件ある心理カウンセラー専門職には,臨床心理士(医療系)と公認心理師(一般社会向け)がある。更にスクール・カウンセリングは教職におけるベテランの有資格者か,家族心理学の専門研究職が担っていることが多い。彼ら心理専門職の多くが主たる職業を有し,資格取得後は副業として専門性を勤務先で生かしているケースが多く,全体の7割程度を占める。

◆社会市場での機会創出

 コロナ禍の2020年には在宅勤務が就労者の9割を占めた。その結果,労働者が自宅で孤独になる問題が発生し,各社組織は絆づくりに精を出していた。また在宅勤務で通勤時間がなくなったことから「学び直し」に関する啓蒙活動も盛んであった。本課題を踏まえ,当時3つの学会にメール連絡を取り,「心理カウンセラーの潜在的ニーズが社会で高いこと,在宅勤務中に学び直しで資格取得ができること,共同親権法施工でカウンセリングニーズが更に増えること」を訴え,心理専門職の人材育成を提言した。結果,地方私立大学大学院の心理学部では数十人規模の定員増員が役所に認可され,地方で不足していた心理専門職の人材育成が強化された。2020年比較で2024年までの有資格者は,臨床心理士で4,686人,公認心理師で32,072人が増員され総数は倍になり,心理カウンセリング事業のスタートアップも増えた。

 他方,行政にも市民サービスでの心理カウンセリング普及を政策提言し,多くの自治体ではNPO法人への委託も含め心理カウンセリングが導入された。現在,政令都市の一部ではメンタルヘルスの外部委託カウンセリング予約が1か月待ちという状況にあり,首都圏では孤独生活者が増えメンタルヘルス予防目的で心理カウンセリングの必要性が認識され,引き続き,福祉政策強化の面から心理カウンセラーの需要は高いと見込まれている。他方,スクール・カウンセリングは現在も専門人材不足で,行政が求める人数が確保できていない。2021年度の役所統計では,公立の小学校における配置率は31%,中学校で37%,高校で13%と学校への配置は未充足のままとなっている。

◆ゴールは,幸せな人間社会創り

 人々の人生に寄り添い,心がいつも健全に保たれていれば,人は平和で安泰かつ幸せに社会で共存することができる。心を健康に整えてくれる心理専門職が,社会で果たす役割・使命は大きく重要なため,引き続き心理カウンセラーの社会活動が拡大することに期待している。

参考資料:
有資格者統計資料:
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3840.html)

関連記事

白藤 香

最新のコラム