世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3528
世界経済評論IMPACT No.3528

国立大学法人 経営と研究のカネ改革,実証編:いつまでも「象牙の塔」であってはならない

白藤 香

(SPCコンサルティング株式会社Labo 所長)

2024.08.19

長きに渡る課題

 国立大学法人には優れた研究商材がありながら,社会の利用率が未だに低い。過去十数年間海外比較で,知財販売状況,学内の事務方組織,スタートアップ推進事例を調査し,都度解決策を提言してきた。現在は東大内部にマーケティング部が創設され,旧帝大系では産学交流が定番化,研究型スタートアップ投資も十年を迎え盛んになった。

 しかしその状況でも,更に学費値上げをしなければ経営も研究も成り立たないとの訴えが学長から出ている。ビジネス実証の視点で,あと何ができれば経営と研究の金銭的課題解決が図れるのか。除去すべき「最後の壁」について論じる。

壁1,学術界の社会からの孤立(象牙の塔)

 「最後の壁」とはビジネス界との人脈作りを意味する。例えば米国の大学には同窓会組織があり,研究とビジネスの架け橋になっている。人脈があれば交流が生まれ,研究者側からの働きかけも盛んになる。国内では,研究とビジネスがリンクする仕組みは私大における事例が参考になるが,米国の比ではない。

壁2,学術人材の残酷な就業状況

 ビジネスから学術の現場に入り,一番ショックを受けるのは就業の酷さにある。ポスドクで年収300万,日雇い使い捨てがほとんど。年契約やパーマネントの職探しが長期間続き,地獄の様相が依然続いている。社会が博士進学を推奨しても,学術の現場には就業機会が少なく吸収できていない。雇用の責任問題を伴うため,安易に進学もさせない。また老後は老後で雇用延長期間はあってないようなもの,会社員比較で早期無職になり易い。現在も,総じて学術研究者の就業が改善されたとは言い難く,悲惨そのものと感じる。

提案1,研究商材投資で新事業戦略

 過去,研究知財の販売が芳しくなかったという反省点に立ち,現在は研究構想段階やシーズの状態からスポンサー探しが始まり,条件付き開発プロジェクト契約が盛んになっている。社会では低金利でカネ余り状態が十数年間続き,特に金融業界からのアクションが盛んになっている。また大企業では内部留保活用の新事業投資が増え「IPOでひと儲け」が事業戦略に加わった。今後は億ションブームで純利豊かな不動産業界が,研究投資型新事業戦略に参加することが期待されている。

提案2,事業再生目的でR&D活用

 事業再生目的での研究投資はほとんど行われていない。理由は取り扱える専門人材が居ないからである。今後は米国のように企業側からアクセスし,大学の研究室丸ごとを対象にR&D契約を交わし,ポスドクら専門人材を活用しながら事業再生に役立てる策を考えたい。

総 括

1)産学連携で収益化を図るためには,学会に修士卒のビジネス会員を参加させる。新会員は専門分野の持続継続した学びの機会を得ることができ,学術側は産学交流が図れるため,多くの参加者が期待できる。

2)事業の高度専門化が進む中,学術と企業のネットワーク交流が盤石になれば研究投資も増え,ポスドクのインターンシップ就業の機会獲得も容易になり,R&Dプロジェクト契約も増加に転じる。参考事例:人工知能学会

アクション 高度専門性ある研究は,社会でドンドンPRを!

 社会では国立大学法人,学術人材や研究とフランクに絡む機会があまりに少なく,いつまでも「象牙の塔」でいるのは勿体ない。国立大学法人であっても組織改革を進め,事務方組織は独立法人化し,投資・マーケティング・営業等事業遂行スキルが必要不可欠な時代を迎えている。今後,研究シーズを使った商品・サービス開発やイノベーションを社会で心待ちにしている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3528.html)

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