世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.598

もしも火星人が原油価格を見たら……

榎本裕洋

(丸紅経済研究所 シニア・アナリスト)

2016.02.22

 大阪出身の筆者は子供の頃,「阪神タイガースのリーグ優勝を4回見ると死ぬ」とよく言われた。当時の阪神は20年に1回くらいしか優勝できず,4回見ると大体寿命が尽きるという計算だ。いわゆる「〜革命」も同じで,一生のうちに本当の「〜革命」に出会うのは1−2回で,既にIT革命に出会ってしまった我々は滅多なことでは新たな革命に出会えないだろう。21世紀初頭,商品価格が急上昇し,「もはや安い原油はない」「商品価格のステージが変わった」など革命的な意見が跋扈したが,これらが革命でなかったことは既に明らかだ。

 筆者は原則「価格予測は不可能である」というスタンスに立っている。そして商品専門家の商品市況分析を見ていていつも思うのは,①分析が個別商品の需給分析に偏りすぎ,②大半が予測というより後講釈(アナリシスではなくジャーナリズム),という点だ。1年以内の予測であればこういう視点も時に役立つが,総じて大局観が欠如しており,長期予測には不向きだ。

 米国の言語学者チョムスキーは「火星人から見れば地球人は皆同じ言語を話している」と語った。地球上には様々な言語があるが,その構造は大変似ているという意味だ。この考えを商品市況にも応用してみよう。20年程度の長い時間軸で主要商品価格の動き,例えば原油とコーンと銅の動きをグラフ化して,火星人的に遠くから眺めると,これらの値動きがかなり似ていることが分かる(グラフを掲載できないのが残念だ)。もし火星人が商品市況を見たら「商品価格は皆同じ動きをしている」というだろう。穀物専門家は21世紀初頭のコーン価格上昇を米国のバイオ燃料政策で説明する場合が多いが,それでは同じ時期に原油や銅の価格が上昇した背景は説明できない。またエネルギー専門家は足元の原油価格下落を「シェール革命」で説明するが,それではなぜ2014年末に突然原油価格が急落したのか,そのタイミングは説明できない。なぜなら,シェールオイルの生産は10年ほど前から既に始まっていたからだ。ここにも「個別商品の需給分析」の限界がはっきり見える。

 長期的な商品市況は商品によらず,大なり小なり世界景気と米ドルレートの影響を受ける。一般に世界景気が良ければ商品市況は上がり,悪ければ下がる,米ドルレートが高くなれば商品市況は下がり,安くなれば上がる。読者の中には,「個別商品の需給が予測できないのと同じく,世界経済や米ドルレートだって予測できないのでは」という疑問をもたれる方もいるだろう。これに対し筆者は「供給者・需要者が乱立する原油等と違い,米ドルの需給は米連邦準備制度(以下FED)が一定の透明性のもと独占的かつ明確な意思をもって管理している。そして米ドルの需給が米国の金利を決定し,米ドルレートを決定し,世界経済を左右する。従ってFEDの意思が分かれば,世界経済も米ドルレートも大まかな動きは予想できる」と考える。

 実際,FEDはかなり前から利上げの意向を示してきたが,足元ではそれと歩調を合わせるようにドル高が進み,世界経済が減速し,商品価格は低下している。従って,商品市況を考える際にも,FEDの連邦公開市場委員会(FOMC)後に発表される声明文を読むことは非常に有益だ。そこには世界経済を左右する米国経済の現状・展望と,それに合わせた金融政策判断がコンパクトにまとめられている。商品市況を考える際,個別商品の需給にとらわれがちだが,まずは世界経済の大枠である米国経済の動向を考えることをお勧めしたい。

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