世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日中ハイレベル経済対話と日中韓FTA
2018.05.21
日中ハイレベル経済対話(「中日经济高层对话」)が2018年4月16日,約8年ぶりに東京で開かれた。日中ハイレベル経済対話は,日本の外務省によると「戦略的互恵関係の視点に立ち,経済分野での問題解決や協力促進につき大所高所から議論する経済閣僚間の定期的対話の場」として,2000年10月に安倍総理の訪中の時に創設を合意されたようだ。
第1回目の日中ハイレベル経済対話は2007年12月1日に北京で,第2回目は2009年6月7日に東京で,第3回目は2010年8月28日に北京で開かれた。第1回目の開催時に,第2回目の開催時間を2008年に決めたが,実際にはその翌年の2009年に開催された。従って全般的にみるとここまでの日中ハイレベル経済対話は「定期的対話の場」として,1年ぐらいの間隔で定期的に開催されたようにみえる。ところが,第3回目の開催時に,第4回目は2011年に開催すると発表したにも関わらず,8年越しとなり今年(2018年)にやっと開かれたこととなる。今年は日中平和友好条約を締結して40周年であることや,米国をはじめとする自国保護主義の懸念や,中国の一帯一路政策などが一因になっているといわれている。
第4回目になる今回の日中ハイレベル経済対話は,日中両国のマスコミにおいて当日から大きく報道された。2018年4月16日当日の17時に読売オンラインは「日中,経済連携強化へ…ハイレベル対話再開」,同日の20時に日本経済新聞電子版は「日中経済対話 中国,米意識し早期開催こだわる」,同日の21時にデジタル毎日は「日中経済対話 経済協力は新局面に 日中の思惑一致」,同じ時間に読売オンラインは「日中,『貿易戦争』に懸念…8年ぶり経済対話」などのタイトルで報道している。中国の人民網(人民日報電子版)は4月16日19時に「中日ハイレベル経済対話8年ぶりに再開 メディア:日本側アクセルを踏みブレーキを少なくする(「中日经济高层对话8年重启 媒体:日方踩油门少刹车」)」,新華網(新華社通信電子版)は4月17日7時に「中日ハイレベル経済対話8年後に再開された三段階の再考(「中日经济高层对话时隔8年重启的三层考量」)」というタイトルで,三段階の再考を次のようにまとめている。中日両国は,①共通の利益を固める,②協力するスペースを拡大する,③自由貿易を支持する。
一方,韓国も日中ハイレベル経済対話について大きく注目している。韓国中央日報オンラインは4月16日当日の21時に「中・日8年ぶりにハイレベル経済対話…米国が難しい中国 日本と手を組む(「중·일 8년만에 경제 고위 대화…미국 힘겨운 中 일본과 손잡아」)」というタイトルで,中国は米国の保護貿易主義に対抗し日本に中日経済協力の強化と自由貿易の体制を守ることを提案した,中国の目的は米国の貿易拡大法232条により鉄鋼・アルミニウムにおいて高率関税の爆弾を受けた日本を,米中貿易戦争の味方にしたいようだ,と紹介された。
現在,日本と米国,中国と米国,日本と中国の間にはFTAが締結されていない。また米中貿易戦争の可能性について大きく議論されている。中国の輸入関税についてみると,中国の自動車(完成車)の関税はかつて200%以上であったが,WTO加盟(2001年12月)のため,数回の引き下げがあり,2006年から現在の25%になっている(輸入関税割当制度が廃止されたのは2005年)。今年4月10日に中国の海南省にて開催のボアオ・アジア・フォーラム(中国主導の「アジア版ダボス会議」)で,習近平主席は中国において今年の完成車の輸入関税を相当な幅で引き下げをすると発表した。2016年の乗用車の販売台数を比較すると,中国は2,438万台で世界の1位,米国は687万台で2位,日本は415万台で3位となっている(日本自動車工業会の統計資料)。中国国内で販売される乗用車は,2位の米国と3位の日本の合計台数よりはるかに大きくその約2倍となる。現在,中国の輸入台数は100万台ぐらいしかないことを考えれば,今年輸入関税が引き下げになると,乗用車の生産と販売において2位の米国と3位の日本は,他の国と同様,あるいはさらに大きな貿易創出効果が期待される。もし貿易創出効果が働くのであれば,米中貿易戦争というのは乗用車の輸入では成り立たないこととなる。
2018年4月15日に日中外相会談が行われたが,前回の会談が2009年11月であるため,こちらは8年半ぶりの再開である。また第7回目の日中韓サミット(第1回目は2008年12月)が,今年5月9日に約2年ぶりに東京で開催された。日中韓の間では日中韓自由貿易協定(FTA),東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などの経済統合や,一帯一路という経済協力が交渉中である。経済問題を含めた外交プロセスは「曲折」をたどるものであるが,地域統合の「費用」(歴史認識などを巡る議論)だけでなく地域統合の「利益」が認識され,日中韓の経済統合に正の影響を与えられることを期待したい。
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