世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
RCEP協定の発効から一年
(千葉大学 特別研究員)
2023.04.10
地域包括的経済連携(RCEP)協定が2022年1月1日から日本・中国を含めた10カ国で発効し,1年が経った。その後,韓国で同年2月1日に,マレーシアで同年3月18日に,インドネシアで2023年1月2日に発効した。フィリピンは6月2日の予定,ミャンマーの事情は特殊で一部の国とのみ発効している。
中国海関総署の2023年1月13日付の発表によると,2022年の中国の貿易総額は42.1兆元で,そのうち輸出は24.0兆元,輸入は18.1兆元となり,それぞれ前年比7.7%,10.5%,18.1%増加した。輸出・輸入とも前年比3割増で過去最高を記録した2021年の貿易額を上回わる実績で,2年連続して過去最高を更新した。2022年の中国の主要貿易相手を上位5カ国・地域でみると,貿易額は米国(12.0%),韓国(5.7%),日本(5.7%),台湾(5.1%),香港(4.9%)。輸出額は米国(16.2%),香港(8.3%),日本(4.8%),韓国(4.5%),ベトナム(4.1%)。輸入額は台湾(8.8%),韓国(7.3%),日本(6.8%),米国(6.5%),豪州(5.2%)であった。RCEP加盟国からは日本,韓国,ベトナム,豪州が上位5カ国・地域に入っている。(括弧内は,全体に占める割合)。
RCEP加盟国と中国の貿易額は12.9兆元(30.8%)で,そのうち輸出が6.6兆元(27.6%),輸入が6.3兆元(35.0%)となり,それぞれ前年比で7.3%増,17.2%増,1.5%減になった。RCEP加盟国との貿易を詳しくみると,ASEANとの貿易額・輸出額・輸入額のシェアは,15.5%・15.8%・5.1%で,それぞれ前年比で15%・21.7%・6.8%増加した。一方,日本は貿易額・輸出額・輸入額のシェアは5.7%・4.8%・6.8%で,それぞれ前年比で0.7%減・7.7%増・7.5%減となった。また韓国との貿易額・輸出額・輸入額のシェアは5.7%・4.5%・7.3%で,それぞれ前年比で3.2%増・13%増・3.7%減となった。
中国国務院新聞弁公室が2023年1月13日に開催した,2022年輸出入に関する記者会見(国新办举行2022年全年进出口情况新闻发布会)で,税関総署の呂大良報道官はRCEP協定の発効から1年間,中国とRCEP加盟国の間で産業連携が強化されたと指摘した。中国とRCEP加盟国との中間財貿易額は8.7兆元で,前年比8.5%増となり,RCEP加盟国との貿易額の67.2%を占めた。主要製品を見ると,輸出では機械・電機製品と労働集約型製品がそれぞれ13.2%,20.7%増加し,そのうち電子部品,バッテリー,自動車がそれぞれ15%,50.3%,71.6%増加した。輸入については主要品目のシェアは機械・電機製品,金属鉱物および鉱物砂,消費財がそれぞれ46.2%,10.4%,10.2%を占めるが,原油,天然ガスなどエネルギー製品も比較的増加している。
その後の2月2日に国務院新聞弁公室が行った2022年実績に関する商務部の記者会見(国新办举行2022年商务工作及运行情况新闻发布会)で,郭婷婷副部長は「多くの企業が協定の恩恵を受けた」と指摘した。2022年に中国の輸出企業の原産地証明書は,合計67.3万件が申請・発行された。輸出額では2,353.15億元で,輸入国・地域から15.8億元の関税譲許を受けたと推定される。中国企業は653億元の輸入額で15.5億元の減税を受けたという。
一方で,韓国関税庁は2023年2月1日付の報道資料「RCEP協定発効から一年目:協定を活用した輸入額の現状」において,RCEP協定の特徴は統一した原産地規則が適用されることを指摘する。原産地認証の輸出企業の原産地証明書が自律発行されることにより,企業の協定活用の利便性が高まるとしている。韓国ではRCEP発効後,2022年2月1日から12月までの11カ月間の輸出でRCEP協定を活用したものは33億ドル,輸入は56億ドルであったが自律発行方式は税関に集計されないため,今回の輸出活用現状では対象外となるため,実際は更に大きいと推測される。韓国の輸出入企業は,対日本輸出入で協定を一番多く活用し,最大の受益品目はバッテリー製造に使う原材料であった。
国・地域別のシェアをみると,輸出では日本が67.3%,中国が27.7%,タイが2.4%で,上位3カ国で全体の97.4%を占めた。輸入では日本が48.3%,中国が38.7%,タイが11.5%で,上位3カ国が全体の98.5%を占めた。韓国では,既存のFTAを活用する企業や,RCEP協定の発効が遅かったインドネシア(2023年1月)とまだ発効してないフィリピンとミャンマーなどとの貿易があることが上述のシェア構成になった背景にあると推測される。対日本において,主要な輸出品目は硫酸ニッケル(1.4億ドル),プロピレンポリマー(1.4億ドル)などバッテリー・プラスチックの原材料であり,主要な輸入品目はゴムの原料(2.5億ドル)およびその他の石油調製品(1.9億ドル)であった。対中国において,主要な輸出品目はバッテリーの素材であるリチウム化合物(6.9億ドル)で,主要な輸入品目は酸化リチウム・水酸化ナトリウム(15.9億ドル)だった。その理由は硫酸ニッケル,酸化リチウム・水酸化リチウムなどバッテリー製造に使う原料の活用が多いのはこれらの品目の関税がRCEP協定により0%に削減されたからだ。硫酸ニッケルは4.6%から,酸化リチウム・水酸化リチウムは8%から0%になった。
RCEP協定は少なくとも中国と韓国の輸出入において同様に大きな役割を果たしているようだ。ところが,西村康稔経済産業相は2023年3月31日の記者会見で,「半導体製造措置輸出管理」を強化すると発表した。高性能な先端半導体の軍事転用の防止を目的として,23の半導体製造装置について全地域向けの輸出を管理対象に追加する予定とした。2019年7月1日から2023年3月16日まで3年以上実行された,対韓国の半導体材料の輸出規制を彷彿とさせる。同日もう一つのニュースがあった。日テレNEWS「中国からのインバウンド促進を。北京で日本食や文化のイベント開催」によると,2019年に来日した中国人旅行者数は959万人であったが,2022年は新型コロナウィルス感染症で19万人に激減した。日本の観光業もインバウンド需要の回復を待ち望んでいる。
日本では新型コロナを5月8日から感染法上の「5類」に移行することになり,RECPの発効国からのインバウンドも増える。色々な意味で貿易障壁が低くなり,春が近づくと思ったが,依然として厳しい輸出管理体制が布かれる。韓国との問題解決に3年以上がかかったことを忘れずに,一日でも早く合掌点を見出すことを期待する。
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