世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3028
世界経済評論IMPACT No.3028

日中韓の経済協力と貿易紛争・摩擦の動向

韓 葵花

(千葉大学 特別研究員)

2023.07.10

 経済産業省は,2023年6月27日付報道資料「輸出貿易管理令の一部を改正する政令が閣議決定されました」において,「輸出貿易管理令別表第3の国に大韓民国を追加」したと発表した(7月21日施行)。同省は今年3月23日に半導体の製造に不可欠な核心素材である「フッ化水素・フッ化ポリイミド・レジスト」の3品目の輸出について,「特別一般包括許可の制度の対象」に追加したばかりである。2019年8月7日に発表,8月28日施行の政令により,韓国は貿易管理上の優遇措置を受けられる「輸出貿易管理令別表第3に掲げる地域」から除外され,対韓輸出規制が強化された。その措置に対して韓国は2019年9月11日に世界貿易機関(WTO)へ提訴したが,上述の3品目に関わる追加措置(2023年3月23日)をもって提訴を取り下げた。韓国は2019年の除外から約4年を経て輸出手続きの優遇措置対象国,いわゆる「ホワイト国」へ復帰したこととなる。

 これに関連して,韓国聯合ニュースは同日付け記事「日本,韓国『ホワイトリスト』4年ぶりに復活,輸出規制全部解除」で,韓国が今年4月24日に日本をホワイトリストに復帰させ,日本も同様な対応をすることで,韓日両国間の輸出規制紛争は終了したと伝えた。これにより韓国企業が日本への戦略物資の輸出を申請する時,審査期間がこれまでの15日から5日に短縮され,個別輸出許可の場合も申請書類は5種類から3種類に減少された。

 一方,韓国産業通商資源部も6月27日付け報道資料「韓日輸出規制懸案,4年ぶりに完全に解消:日本,6月27日に韓国をグループA(通称ホワイトリスト)に追加する政令改正案を採択」において,「日本から韓国への戦略物資の輸出が“一般包括許可”となったことで,申請資格と要件が緩和された。両国企業の事業環境の改善に役立つことが期待される」とした。産業通商資源部は「今年3月の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の訪日が両国間の信頼回復の手掛かりとなった。韓国側の先制的なホワイトリストの回復措置と,産業通商資源部―経済産業省間の緊密な政策対話の集中的開催を通じ両国間の信頼が完全に回復された」と評価した。また,「今後もこれを基にして,多様な二国間および多国間の輸出規制の懸案に関して日本との協力を緊密に推進していく計画」とした。

 産業通商資源部の7月6日付け報道資料によると,12年ぶりに韓国と日本のシャトル外交が再開(3月16日東京,5月7日ソウル,5月21日広島)し,輸出規制の懸案が4年ぶりに完全に解消(6月27日付け日本閣議決定)されることにより,両国の企業人の産業協力の議論が活発になりつつある。その例として7月6日にソウルで,韓国全国経済人連合会(全経連)と日本経済団体連合会(経団連)による「韓日産業協力フォーラム」が開催されたことを挙げ,両国間の製造,金融,インターネットなどの分野別経済交流および協力を促進する方法について議論されたことを紹介した(「韓日産業協力,政府と産業界が力を合わせて本来の軌道に安着」)。

 韓国貿易協会の2023年3月30日付研究報告書「日本輸出規制措置解除の経済的効果と示唆」によると,「3品目」の中でフッ化水素とフッ化ポリイミドの4年間の対日輸入は減少したという。「フッ化水素」の対日輸入割合は2018年に41.9%であったが,2019年に33.2%,2020年に12.9%,2021年に13.4%,2022年には7.7%に減少した。「フォトレジスト」の輸入額は大きな変動はないが,輸入依存度は小幅に減少し,大半はベルギーからの輸入に転換した。フォトレジストの対日輸入割合は2018年に93.2%であったが,2019年に88.3%,2020年に86.5%,2021年に79.3%,2022年に77.4%と小幅の減少になった。「フッ化ポリイミド」は輸出規制を施行する前に相当な国産化が形成され,企業が代替素材(透明ポリイミド)を選択したので,対日輸入は大きく減少した。また2019年から2022年までの韓国と主要貿易国との平均貿易増加率をみると,米国(9.8%),ベトナム(6.5%),中国(3.7%)と比べ,日本は0.1%と低調であった。

 約4年間にわたる日韓の紛争が解決し,今後は日韓に加え中国も含めた3か国の経済協力が期待されるが,日本の経済産業省は対中輸出規制を念頭に2023年5月23日付けで半導体製造措置「新たな輸出管理の対象となる23品目」を発表した(7月23日施行)。また中国商務部は2023年7月3日付報道資料「商務部海関総署公示2023年第23号 ガリウム,ゲルマニウム関連品目の輸出管理の実施に関する公示」にて,国家安全と利益を維持するために,8月1日から施行するとした。このように依然貿易面での摩擦は残るものの,日中韓経済協力には希望も見える。東アシア地域包括的経済連携(RCEP)が2023年6月2日にフィリピンにおいても発効したので,締約国15か国全部において発効済みとなった。また「日中韓三国国際協力フォーラム2023」が7月3日に中国青島で開催された。今回のテーマは「ポスト・コロナ時代における日中韓三国協力の再活性化:コミュニケーション,コネクティビティ,コミュニティ」であった。そして中国国際サプライチェーン促進博覧会(中国語:中国国际供应链促进博览会,2023年11月28日~12月2日)が「世界をつなぐ,共に未来を創る」をテーマに開催される予定である。7月4日には北京で第1回中国国際サプライチェーン促進博覧会プロモーションが,日本国際貿易促進協会の訪中団を歓迎するレセプションと共に開催された。

 このように種々の貿易面での摩擦が経済協力に暗い影を落とすが,上述の取り組みのうち一つでも経済協力にプラスの機運を生み,日韓紛争のように,曲折を経つつも解消されることを期待したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3028.html)

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