世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1076

なぜ直近の対ロ経済制裁は効いたのか?

榎本裕洋

(丸紅経済研究所 チーフエコノミスト)

2018.05.14

 「これまでそんなに効かなかったのに,なぜ今回はこんなに効いたのだろう」。ここ1カ月ほどロシアビジネス関係者の間でよく聞かれるのがこのセリフだ。2014年以降米国が科してきた対ロ制裁が短期的にはっきりした効果を示すことは殆どなかったが,4月6日に米国財務省のOffice of Foreign Assets Control(以下OFAC)が発表した一連の制裁は,一部商品市況やロシア関連市場を揺り動かした。

 2014年以降米国がロシアに科してきた制裁の中心を成しているのは以下の2つで,いずれも財務省のOFACが作成している。因みに4月6日にOFACが発表した制裁も以下の①であった。

  • ①Specially Designated Nationals and Blocked Persons(以下SDN)リストへの掲載
  • ②Sectoral Sanctions Identifications(部門別制裁対象者,以下SSI)リストへの掲載

 次に重要なのが2017年8月に成立したCAATSAで,詳細は割愛するがこの法律の特徴は以下の3点である。

  • ①対ロ制裁に関する大統領権限を縮小,制裁の緩和・撤廃につき議会承認を義務付け
  • ②既存制裁を強化
  • ③新規制裁の導入

 それではなぜ4月6日に米国財務省のOFACが発表した制裁は効いたのか。一部のメディアは当該制裁のプレスリリースに明記された” Additionally, non-U.S. persons could face sanctions for knowingly facilitating significant transactions for or on behalf of the individuals or entities blocked today.(更に非米国人は,本日ブロックされた個人または団体のための重要な取引を意図的に支援することで制裁に直面する可能性がある)” が原因であるとしている。

 しかしこれ以前の対ロ制裁の中にも,非米国人の制裁参加を要求したり,制裁に違反した非米国人を制裁対象としたりするものは存在する。特に先述のCAATSAのSEC.226/228は制裁対象者と取引を行う非米国人・非米国金融機関に制裁を科すという点で,4月6日にOFACが発表した制裁に似ている。しかし市場は昨年8月のCAATSA成立よりも,4月6日のOFAC発表に強く反応した。なぜだろうか。

 ここから先は筆者の考えだが,CAATSAのSEC.226/228が制裁対象の属性を示しているに過ぎない(制裁対象が固有名詞で示されていない)のに対し,4月6日のOFAC発表は制裁対象を固有名詞で示した点が効果の違いを生み出したのではないだろうか。また2014年以降の対ロ制裁で中心的役割を果たしてきたSDNリストへの掲載や,取引そのものを禁じるという「分かりやすさ」も情報伝達の観点から市場の反応を増幅した可能性が高い。

 更に制裁対象企業の規模の大きさも影響したと思われる。情報公開の不足もありロシア企業の規模を正確に知るのは困難だが,比較的長くロシアビジネスに携わってきた筆者が見る限り,4月6日にOFACがSDNリストに加えた企業,特にRUSAL,BASIC ELEMENT,EN+ GROUP,RENOVAは従来の制裁対象企業と比較して,その規模やビジネスの世界的広がりが明らかに大きいと感じる(ストロイトランスガスやロスオボロンエクスポルトといった大企業もSDNリストに入っているが,これらはそれぞれ「パイプライン建設業」「防衛産業」であり,ビジネスの裾野の広さという点では見劣りする)。

 尚,OFACによれば,今回の措置は今年1月29日に財務省が議会に提出したCAATSAのSEC. 241に基づくレポート(いわゆるクレムリンリスト)をフォローするものだという。これで今後クレムリンリストのメンバーが保有する企業は常にSDNリスト入りの懸念にさらされることとなった。対ロ制裁はまた新たな段階に入ったといえよう。

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榎本裕洋

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