世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.981

歴史に学ぶ人,無関心な人

小浜裕久

(静岡県立大学 名誉教授)

2018.01.01

 マーガレット・サッチャー首相は1988年9月19日,ベルギーのブリュージュにあるCollege of Europe でヨーロッパを自画自賛して,

 

Too often, the history of Europe is described as a series of interminable wars and quarrels. Yet from our perspective today surely what strikes us most is our common experience. For instance, the story of how Europeans explored and colonised - and yes, without apology -civilised much of the world is an extraordinary tale of talent, skill and courage.

 

と言い放った(ここ(Margaret Thatcher Foundationのwebsite)で全文を読むことが出来る)。

 サッチャーは,我々優れたヨーロッパ人が世界中を植民地化することによって蒙昧なるアフリカ人,アジア人,南米の原住民を「未開」から引き揚げて文明化してやったのだと言うのだろう。確かに「歴史は勝者が書く」のかも知れない。でも,どう考えても傲慢だ。こういったことに関心の向きは,近く出る石川・小浜『「未解」のアフリカ:欺瞞のヨーロッパ史観』を読んでみて下さい。

 歴史学者の井上勝生は,19世紀半ば「未開」とされた黒人伝統文化には,欧米とちがって,少数を真に尊重するような独自の包容力があった。……反アパルトヘイト運動を支えた伝統文化の根強さは,まさに敬服に値する。それは,未開どころではない力量をもっていたのであり,欧米の文明を逆転したのである,と書いている(『幕末・維新——シリーズ日本近現代史(1)』岩波新書,p. ⅲ)。

 歴史教育に問題があるのかも知れないが,世の中には「歴史が好き」な人と「歴史に関心がない」人がいると思う。ドナルド大統領,シンゾウ首相は,「歴史に関心がない」グループに入ると思う。

 2014年,スイスのホテルかどこかでギデオン・ラックマンに「今年はどんな年か」と訊かれて,シンゾウ首相,「第一次世界大戦勃発100年だね」と答えた。そこまでは事実だからいいけど,「100年前と何か世界情勢が似てるよね」といったことを付け加えたと報道された。筆者もそれほど近現代史をキチンと勉強したわけではないので偉そうなことは言えないが,付け焼き刃で歴史を語るとボロが出る。

 いろんな所に書いているが,ドナルド・トランプは,短期・ミクロの人で,ビルを建てるとか売り買いすることだけに長けた人で,自分の商売に直接関係しない本を読んだりしないのだと思う。11月6日,東京・元赤坂の迎賓館で開かれた安倍首相夫妻主催のトランプ大統領を迎えた夕食会で,小野寺防衛大臣はマティス国防長官からマルクス・アウレリウスの『自省録』を贈られた話を紹介したら,ドナルド大統領は「彼は難しそうな本を読んでいるんだよな」とジョークで返したと言われる。ジョークじゃないと思う。「エルサレムはイスラエルの首都で,エルサレムにアメリカ大使館を移す」なんて言うのは,おそらく別の目的があって,歴史を踏まえて熟慮の結果の政策ではないだろう。

 国連総会は12月21日の緊急会合で,トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都に認定した決定を無効とする決議を,日本を含む128か国の賛成多数で採択した。193加盟国中56か国が賛否を明らかにしなかった。賛成国に対するトランプ氏の「札束で顔を叩くような警告」が影響したのだろう。たしかにトルコの外務大臣が言うように倫理的じゃない。でも,ドナルド・トランプに倫理性を求めるのは「喜劇」だ。

 鈴木幸一が言うように,自らが経営に関わった会社をチャプターイレブン(米連邦破産法11条)の適用によって,合法的に倒産させては切り抜け,その都度,事業規模を膨らませながら,大富豪となったドナルド・トランプが,一民間企業の親分なら何の文句もないが,アメリカ大統領というのは,理解に苦しむ。

 ドナルド大統領とシンゾウ首相は,「馬が合う」と言われている。ゴルフ好きはたくさんいるけど,共通点で問題だと思うのは,二人とも「イエスマン大好き」。これは自信のなさの表れだと思う。周りがイエスマンばかりだと国を誤る。政策的には,二人とも「饂飩屋の釜」。「何かやってるよ」ということが大事で,難しいことからは逃げる。例えば,初めの「3本の矢」のなかで一番難しい構造改革は,どうやら頬被り。もう一つの共通点は,「歴史に関心がないし,勉強する気もない」ことではないだろうか。

 時々,政治家の心の中を覗けたらおもしろいだろうなと思うことがある。プーチンや習近平が本音ではドナルド・トランプをどう思っているかとか,ドナルド大統領がシンゾウ総理を本当はどう思っているかなどが分かったら楽しい。塩野七生の夢想はもっと秀逸で,プーチンを日本の議会の予算委員会に呼んで答弁させようなどと言っている。

関連記事

小浜裕久

国際政治

教育・学び

最新のコラム