世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
アメリカの天然ガス事情
(東京理科大学大学院イノベーション研究科 教授)
2017.11.20
2017年の8月,アメリカの天然ガスにかかわる二つの現場をまとめて見学する機会があった。訪れたのは,テキサス州東部・ヘインズビルのシェールガス田,およびルイジアナ州・キャメロンのLNG(液化天然ガス)輸出基地である。
テキサス州ダラスから東へ約260km,車で3時間の距離にあるヘインズビルのシェールガス田では,カッセージにあるフィールドオフィスで,まず詳しい説明を受けた。同地にはもともと,地下のタイドサンド層から天然ガスを産出する従来型のコットンバレー層のガス田が稼働していたが,それより深いシェール層からの天然ガス産出が新たに可能となり,ヘインズビル層のガス田の開発が始まったと言う。コットンバレー層ガス田自体もかつての勢いはないがまだ生産を続けており,同ガス田とヘインズビル層ガス田とが,同時に稼働する形になっている。産出されるガスは,メタン中心のリーンな成分であると聞いた。
カッセージのフィールドオフィスを運営するのは,CCI(キャッスルトン・コモディティーズ・インターナショナル)社の子会社であるCR(キャッスルトン・リソーシズ)社である。東京ガスは,100%出資子会社である東京ガスアメリカ社を通じて,2017年にCR社の30%の株式を取得した。ヘインズビル層のシェールガス開発事業やコットンバレー層のタイトサンドガス開発事業は,東京ガスが近年積極的に展開する国際化戦略の重要な一環を占めているのだ。
圧巻だったのは,フィールドオフィスから車で20分ほど走った森の中にあるシェールガス掘削現場である。中央に陣取ったタワー状の巨大な掘削リグが次々と径5.5インチの鉄パイプ(ケーシング)を地中に送り込み,掘削作業の第一段階が終了して,補強のためのセメント注入が始まる直前であった。1本10m弱の鉄パイプは3本つなげたうえで掘削リグに運ばれ,そこですでに埋設されたケージ下を掘り進む。地中を垂直方向に約3000m進み,シェール層に達したところで,水平方向に進路を変えて,さらに2000m進む。すべての掘削作業が完了すると,水圧破砕が行われ,シェールガスの生産が始まることになる。
2012年にダラス付近のバーネットのシェールガス田を見学したことがあるが,その時との大きな違いに気づいた。掘削作業を円滑に進めるために掘削機の先端で潤滑油の役割を果たす水ベースのマッド(泥)と油ベースのマッドの使用区間を最適化する,なるべく近い場所に井戸を次々と掘り高コストの掘削リグのレンタル期間を最小化する,生産量が縮小したシェールガス田の砂のクリーンアウト(水の排出を含めた坑内クリーニングによる,低コストで生産性を高めるための取組み)を実施する(今回は,その現場も見学することができた),などの生産性を向上させるための工夫が随所に施されているのだ。この生産性向上の努力こそ,2012年時点と異なり原油価格が下落して天然ガス価格が下がっている厳しい状況下でも,アメリカのシェールガス開発が継続できている要因の一つなのであろう。
テキサス州ヒューストンから東へ約240km,州境を超えて車で2時間半の距離にあるルイジアナ州キャメロンのLNG輸出ターミナルでは,2018年末の竣工へ向けて建設工事がまさに佳境を迎えていた。キャメロンのターミナルは,もともとLNG輸入のために開設され,QフレックスのLNG船が横付けされてLNGを輸入した実績をもつが,その後のシェールガス革命の進行によって,新しくLNGの輸出ターミナルとして生まれ変わることになった。アメリカのセンプラエナジーを中心にして,日本のジャパンLNGインベストメント(三菱商事が70%,日本郵船が30%出資する合弁会社)と三井物産,フランスのエンジーが共同出資して14年に設立したキャメロンLNG社が,プロジェクトのオペレーターとなっている。
人里離れた湿地帯に位置するキャメロンの現場では,1トレイン年産400万トンの天然ガス液化装置が3基,同時に建設されており,壮観だった。訪問時には,約1万人が働いていた。新設する主要な液化装置も,既存の3基のLNGタンク(それぞれ容量14万kl)も,洪水の被害を防ぐため「高床式」になっている点が,目を引いた。景観を維持するため,通常の煙突状のフレアではなく,グランドフレアを採用することも特徴的である。
建設工事自体はアメリカのCB&I(シカゴ・ブリッジ・アンド・アイアン)と日本の千代田化工建設が担当しており,訪問時点で工事の進捗率は70%超とのことだった。今後,さらに2トレインの天然ガス液化装置を建設することについて,アメリカ政府当局の許可を得ているそうだ。その場合には,LNGタンクを2基,増設することになると聞いた。
キャメロンの建設現場からヒューストンにもどる途中,やはり2012年に訪れたことがあるルイジアナ州・サビンパスのLNG輸出基地を遠望することができた。5年前にはなかった天然ガス液化装置が姿を現し,キャメロン基地より一足早くサビンパス基地は,フル稼働していた。
シェールガス革命のダイナミズムは,さらに勢いを増している。それを実感することができた今回のアメリカ行であった。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :アングロアメリカ
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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