世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.934
世界経済評論IMPACT No.934

電気自動車ブームのリアルと限界

福田佳之

((株)東レ経営研究所 シニアエコノミスト)

2017.10.16

2016年には200万台が普及

 電気自動車(Electric Vehicle: EV)の普及を促す動きが世界で活発に見られる。7月に英仏政府が2040年までにガソリン車などの内燃機関車の販売を全廃する計画を発表し,中国やインドも追随する動きを見せている。それに呼応する形で自動車メーカーもEVのラインナップを揃え始めた。ドイツのVolkswagenは9月に2025年までに最大300万台,80種類以上のモデルでEV販売目標を明らかにしている。これは同社の世界販売の4分の1に相当する。またGMは2023年に20種類以上のEVや燃料電池車を販売するとしており,トヨタも2020年にEVの量産体制を整えるために,マツダやデンソーと技術開発提携を行った。

 EVの普及見通しについて国際エネルギー機関「Global EV Outlook 2017」によると,電動車(EVとプラグインハイブリッド車)の累計販売台数は2016年の200万台から,2020年には900〜2,000万台,2025年には4,000〜7,000万台まで達するとする。これでも世界の自動車全体の保有台数と比べると,数パーセントに過ぎず,2025年以降も拡大していく余地がある。

温室効果ガス削減の潮流

 このように電気自動車が世界的な普及に向かう背景の一つとして,これまでの欧米等での温室効果ガス削減に関する制度的な取り組みを無視できない。6月に米国トランプ大統領がパリ協定の離脱を発表したが,世界的な温室効果ガス削減の流れを阻害するものとなっていない。

 これまで先進国を中心に温室効果ガス排出抑制,とりわけ自動車に対する燃費規制に取り組んできた。欧州では過去20年間で燃費規制を強めており,2021年には現在の乗用車の二酸化炭素平均排出量(130g/km)を95g/kmまで引き上げる。米国ではカリフォルニア州のZEV(Zero Emission Vehicle:ゼロ排ガス車)規制が有名だが,2018年には規制対象の自動車メーカーの範囲を広げるとともに,これまでカウントしていた低燃費車やハイブリッド車をZEVから除外する。中国では2019年からEVなど新エネルギー車の販売義務付けが行われる予定である。こうした長年の燃費規制等の取り組みを受けて自動車メーカーなどの企業が一層の温室効果ガス削減に踏み込む必要からEVシフトを実施していると言える。

 ただEVが普及すれば温室効果ガスがそのまま削減されるかどうか怪しい。動力源の電気が化石燃料で発電されていれば削減につながらないからだ。今後,発電における再生可能エネルギー比率を高めていけるかどうかがカギだろう。

蓄電池の大容量化,安全性,そして材料調達に懸念も

 もちろんEV普及に向けて課題は山積だ。まずEV充電器の設置や規格の問題がある。電気をEVに充電する設備が町中にないとおちおち走れない。また現在,世界には4種類の充電器の規格が日米欧中にあって互換性がないため,EVが世界各地で走るには個別対応した充電プラグが必要である。

 次にEVがガソリン車並みの長距離走行や高精度の自動運転を実現するには蓄電池の大容量化が不可欠であるが,現行のリチウムイオン電池では難しい。またリチウムイオン電池の安全性確保の問題もある。蓄電池の大容量化や安全性確保のために次世代築電池の導入は早くて2020年代半ばであり,それまでに例えばEVの蓄電池爆発事故でも起こればたちまちEVは敬遠されるだろう。

 リチウムイオン電池材料の安定調達について疑う声もある。仮に2025年に1千万台のEVが世界で販売された場合,車載蓄電池の重量が300kgと仮定すると300万トンのリチウムが必要であるが,2017年時点のリチウムの確認埋蔵量(1,400万トン)では5年で枯渇してしまう。

 このように電気自動車ブームには各国の制度的取組に裏打ちされたリアルな部分もあるが,依然として限界も抱えており,ブームを慎重に見極める態度が必要だろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article934.html)

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