世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3806
世界経済評論IMPACT No.3806

これまでのトランプ高関税政策の展開を振り返る

福田佳之

((株)東レ経営研究所産業経済調査部長 チーフエコノミスト)

2025.04.28

相互関税を発動するも,一部について90日間の猶予を付与

 4月2日にトランプ大統領が相互関税を発表して,世界を大混乱に陥れた。ヴェトナムの46%から中国の34%,日本の24%,EUの20%と57ヵ国・地域にはそれぞれ高関税率を,残りの国には一律10%を課す内容であり,5日にはベースラインとして10%を賦課した。残余分については9日賦課するとしたが,その後,米国は二国間交渉のための時間として90日間の猶予を与えた。一方,対抗措置を繰り出す中国には125%の高関税率を追加賦課した。なお半導体やスマートフォンなどのIT製品については別途措置を予定しているため相互関税から免除されている。

 4月24日時点では,トランプ大統領就任後の米国の関税政策を巡る展開は予断を許さず,確たることは言えないが,これまでの米国等の動きを見て気付いた点が3点ある。まず第1点は,こうした米国の一方的な関税政策に対して対抗措置などを打ち出す国は中国やカナダなど一部に限られていて,EUや日本など世界の大半の国・地域は現時点では様子見姿勢を見せていることだ。これはトランプ大統領が高関税政策をディールの材料としているため,相手国が交渉次第で米国の賦課関税を低下させる可能性を見込んでいることが大きい。このため,トランプ大統領の高関税政策によって世界経済は減速・後退することは避けられないが,その減速ペースは限定されたものにとどまり,リーマンショックやコロナ禍のようなマイナス成長は回避できると現時点では予想される。もちろん米国との二国間交渉が決裂して貿易相手国が対抗措置を発動する可能性があるため,最終的にどうなるかはわからない。

交渉相手の中国に弱点少なく,交渉は長期化へ

 第2点は,トランプ政権は中国に対して強硬姿勢を強めている一方,受けて立つ中国は対抗措置を発動しているものの冷静さを維持していることだ。中国商務省は「米国が中国に課す高い関税は数字のゲームで,経済的な意味はない」として,米国が再び上乗せしたとしても関税を上げない意向を示している。中国が冷静な姿勢を示す背景には,第1期トランプ政権時代の交渉経験とその後の米国の対中強硬姿勢に対策を施してきたことがある。例えば,中国は対米輸出を減らした一方,太陽光発電装置や蓄電池などのサプライチェーンは中国抜きでは生産できない状況とした。また習近平政権の権力基盤はますます盤石となり,2022年から異例の3期目に突入している。中国は第1期トランプ政権の時よりも弱点が少ないため,米中交渉は時間がかかり,経済悪化等がなければ対立も長期化しよう。

自由貿易体制には戻らず

 最後に第3点として,トランプ大統領の任期終了は解決策とはならない点である。彼の高関税政策の目的は,トランプ支持者の支持獲得・維持がある。彼の支持者は米国内で没落している中間層であり,グローバル化による雇用喪失の影響を受けてきた層と重なる。彼らは低成長にあえいでいるだけでなく,麻薬等の問題を抱えていて深刻である。例えばフェンタニールの過剰摂取による死者数は依然6万人を超えて社会問題化している。彼らは自由貿易体制に否定的であり,こうした政策を打ち出すトランプ大統領を支持している。仮にトランプ大統領が退場しても,次政権はこうした人々を無視することはできない。

 いうまでもないが,トランプ大統領の高関税政策等が功を奏して製造業回帰や中間層再興につながるとは考えにくい。いずれ支持者が離反して揺れ戻しが来るだろう。だが,それでも自由貿易体制が戻るとは考えにくく,世界はいずれ米国抜きの貿易体制やサプライチェーン構築を考えざるをえないだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3806.html)

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