世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
新たな地方創生:町衆の育成なしに成就せず
(高崎経済大学 名誉教授・(公社)日本地理学会 元会長)
2025.07.28
町衆・地域の論理から域外者・資本の論理中心のまちづくりへ構造変化
自主独立の精神での地域づくりが求められる分権時代には,町衆の有無とその活躍如何が地域の発展を左右する。ここで言う町衆は,生活地域の過去・現在・未来を語れ,時代の変化に対応してその地域を良くしていこうと自己実現できる人である。1200年の都・京都の強さは,外来為政者が権力を振るおうとも,古来,地域の伝統文化を基盤に町衆が町づくりを担い,持続的発展システムを構築してきたことにある。
従前のまちづくりは,どこでも地域で生育した町衆を中心に地域特有の文化・伝統を築いていた。また,外部人材も町衆と交流・連携を重ね,地域の歴史・文化・地域性を身につけ,新たな町衆になった。しかし,現在の地方では若年層の大都市流失が顕著で,地域の将来を担う町衆が育たず,急減している。その結果,基幹産業の土地建物・経営権などが突如域外資本に移譲される例が増加した。外形的に地域再生でも,東京などの本社から数年単位で派遣される地域アイデンティティのない社員が管理・運営をし,本社の意向で事業の存廃も決まる。以上のように地方のまちづくりの主体が,町衆から域外資本へと構造転換しつつある。
地方創生に不可欠な伝統文化の継承と新たな地域文化の創生
情報化・国際化の進む現代社会の地方創生には広範かつ様々な人々・組織との協力・交流が必要で,純粋培養な地域・組織はいずれ衰退する。他方で広く多様な交流をするほど,その中核に地域の伝統・文化を守りつつ,新たな地域像・価値を創出する町衆が重要となる。町衆を中心に地域の論理で地方創生・地域づくりをしない限り,地域の伝統や地域性は喪失する。域外資本・人々による資本の論理での地域再生は,一時的に活性化しても経済環境の変化で見放される。たとえば,大型店進出で地域の利便性は増したものの地域商店街の衰退を招き,その後の大型店撤退で破壊された地域は多い。
外部資本でも地域の伝統文化を身につけ,金儲けと共に新たな町衆となるべく地域文化創出に動けば,地域は再生方向に向かうであろう。地域の伝統文化は過去の人々からの,現在そして未来の人々への贈り物である。伝統文化を受け継ぎ未来に渡していくことが地方創生には求められる。文化は政治・経済活動の潤滑油となり,地域特性・付加価値を高め,新たな顧客・交流人口・収益構造を産み出す。知識情報社会では地域の人材・文化力が肝となる。この視点で新旧住民誰もが地方創生に取り組むことで,地方創生への基盤ができる。他方,文化・教育に不熱心な地域に時代を担う人材の輩出や集積を期待することは不可能である。
東京一極集中の推進と地方衰退をもたらす現状の地方創生
かつて地域の一等地で順調に経営していた店舗も,経営環境の悪化や事業継承者がいないと事業主の死亡で空き店舗となる。空き店舗の増加は街の地価を押し下げ,建物の老朽化と共に大都市等で生活基盤を築いた相続人には資産の維持管理が大きな負担となる。その結果,両親が苦労して築いた不動産や経営資産を無料でも手放したくなる。また,名称等外形は変わらないが大都市資本による居抜きされた地域の中核企業も多い。こうした不動産を地方創生に係わる補助金を活用して地域再生に励む域外者も増加しつつある。
他方,流失した大都市居住の相続人の増加は相続財産の地方から大都市への移転となり,地方銀行の弱体化・合併など再編につながっている。これにより益々,地域経済の弱体化が進み,大都市資本による地方の植民地化・東京一極集中が促進されている。
将来の町衆を育成すべく初等中等教育の充実と分権型国土構造への転換
地方創生の目標は,地域が持つ個性豊かな地域資源(人・物・金・情報)を活かして新たな職や価値を創り,住み続けたい・行ってみたい魅力ある地域を創生することにある。この地方創生の中核を成すのが町衆である。しかし,町衆予備軍の若い人々の大量域外流出が問題となる。移住者受入れは多くて数十人に過ぎないが,中等教育卒業者は毎年数百人単位で進学・就職を理由に東京など大都市部へ流失する。「ふるさと住民登録制度」で関係人口を増加させるために事務経費を増やすより,初等中等教育の充実により将来の町衆育成基盤を創ることが重要である。地方創生補助金を初等中等教育の充実に使い,地域愛を育て,将来の町衆育成に努める方が効果的と考える。地域で大切に育成された子ども達は,進学等で流失しても高い確率で地域に戻る。そして他所での多種多様な経験を活かし,町衆となり地方創生に尽力するであろう。そのためには自由に水平ネットワークできる分権型国土構造の構築が不可欠で,首都機能移転により東京一極集中是正の必要がある。
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