世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4046
世界経済評論IMPACT No.4046

人口減少社会におけるまちづくり制度改正の必要性

戸所 隆

(高崎経済大学 名誉教授・(公社)日本地理学会 元会長)

2025.10.27

1.人口減少社会における現行都市計画制度の問題

 現行都市計画法は,人口増加と高度経済成長により市街地が無秩序に形成され,都市問題や公害問題が深刻化した1968年に改正施行された。その要は「無秩序な市街化を防止し,計画的な市街化を図るため,都市計画区域を区分して,市街化区域と市街化調整区域を定める(第7条)」で,人口増加期には一定の効果を発揮した。しかし,人口減少期の地方合併都市で旧町村中心集落を市街化区域にして,コンパクトな拠点市街地からなる利便性の高いネットワーク型都市構造に再構築したくても,人口規模・密度などで市街化区域指定要件を満たせず,旧中心都市周辺に未指定地域が広く存在する。その結果,人口減少が進む中で地価の安い周辺部に大型店や住宅が無秩序に建設され,他方で中心市街地の空洞化が深刻化している。

 筆者は過去20年間,都市計画法を人口減少期に適した形に改正すると共に,郊外での新規開発中心から既成市街地の再開発に重点を置くべきと主張してきた。財政難かつ人口減少時代にはコンパクトなまちづくりによりインフラ整備に膨大な公的資金を必要とする市街地拡大を抑えねばならない。既成市街地には公共施設や空き家・空きビルが増加している。そのリニューアル・再開発で利便性・快適性の高い公共交通と徒歩で暮らせるコンパクトなまちに再構築する必要がある。

 市街地を計画に再開発する都市再開発法は,都市計画法改正の翌1969年に「土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り,もって公共の福祉に貢献することを目的(第1条)」に施行されている。しかし,再開発法も人口・経済規模拡大期の制定であり,今日では不適切な財政支出やまちづくりに活用される面がみられる。

2.財政の浪費と格差社会を創出する都市再開発事業

 人口33万地方中核都市の中心駅に面して,地上27階地下1階,延床面積約3万㎡のタワーマンションが,2024年に県・市と東京の大手不動産会社による第一種市街地再開発事業で完成した。大半は分譲住宅203戸と居住者用駐車場で,公共施設・店舗面積は全体の約4%にすぎない。総事業費は約110億円で,約43億円もの補助金が国・県・市から支出されている(「市議会だより」による)。公共施設・店舗建設経費を除いても住戸1戸あたり1,700万円ほど補助金が出ていることになる。

 入居者の約半数は市民で,他は東京を中心とした県外者とのことで,販売価格は6,000万円から1億円強である。県外者の多くは新幹線通勤手当の出る東京・丸の内・大手町などの大企業勤務者の高所得者や投資家のようである。一般市民の可能住宅取得価格は3,000万円までで,入居者は限られた富裕層といえよう。公共施設は小規模な子育て支援施設と交番である。

 交番は再開発地区に存在したものを隣接地に移設したに過ぎず,子育て支援施設も必要性がどれだけあったのか疑問である。駅前や周辺には空きビル・空き室がいくつも存在し,空き室改修で間に合う。住宅も中心市街地のマンションに空き室が目立ち,良質な空き家も多くある。市内居住者の当該タワーマンションへの入居は空き家を増加させる。完成して1年強で投資対象と思われる購買価格より高い中古物件取引も見られ,タワーマンションが都市再生に寄与しているとは見なせない。

 再開発本来の意義が薄い事業に,多額の公費支出の必要はないと考えるが,全国各地で見られる。全国118地区で進行中の第一種市街地再開発の約9割に国・自治体から総額1兆543億円が交付され,半数以上の66地区が富裕層向けタワーマンションという(共同通信2024年調査)。巨額な公費で大手不動産業者や富裕層を益々豊かにして格差社会創出を促進する再開発制度は,再考すべき時期にある。

3.現制度ではコンパクトなまちづくりも地方創生も成就せず

 2014年から10年間の地方創生第一期の国費補助は約1兆円であった。数年間でほぼ同額の公費1兆超を118地区再開発だけに費やしても満足な都市再生効果は認められない。人口増加・高度経済成長の歪み是正を目的に制定された都市計画法・都市再開発法は,人口減少・低経済成長期に適した形に改定する必要がある。

 たとえば都市計画法の線引き要件は,人口減少社会に適した市街地拡大を抑えコンパクトなまちづくりを可能にするよう改定する。再開発法は新規開発型を極力抑え,既存施設の改修・保存修景により地域の歴史・文化を活かしたまちづくり・地方創生に貢献できるよう改正する。それにより資本の論理・強者の論理によるスクラップ・アンド・ビルド中心の東京型都市開発でなく,従前のインフラや良好な建造物を利活用したリニューアル型再開発により各地域が培ってきた伝統的景観を活かし,財政的・環境的に優しい都市再生を実現すべきである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4046.html)

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