世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4128
世界経済評論IMPACT No.4128

2026年の米国の金融政策の行方

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2025.12.15

3回連続の利下げ

 12月9日,10日開催のFOMCでは,9月,10月に続いて3回連続で0.25%の利下げが行われ,政策金利であるフェデラル・ファンズ金利の目標レンジは3.5~3.75%となりました。金利先物市場では事前に0.25%の利下げが85%程度織り込まれており,大方の予想通りの利下げだったと言えます。ただ,政府機関の閉鎖が長引いた影響で雇用統計や物価統計などの重要経済指標の発表が遅れて,十分な材料がそろわず,FOMC参加者にとっては判断が難しかったようです。0.25%の利下げを決める投票において,2名は金利据え置きを主張し,1名は0.5%の利下げを主張して反対票を投じており,FOMC参加者の中で意見が割れたことが示されました。

利下げの判断には失業率が重要

 金融市場の関心は,今後も利下げが続くのかという点に既に移っています。9月時点のFOMC参加者の経済金融見通しの中央値と今回の見通しを比較すると,政策金利の目標レンジ中央値の2026年末の予想値は,3.375%で変更されず,2026年の年間の利下げ幅は0.25%に留まるとされています。ただ,FOMC参加者の中で意見は割れています。3.375%を予想する人が4人であるのに対し,3.875%とむしろ利上げを予想する人が3人,金利据え置きを予想する人が4人いる一方,3.125%の予想が4人,それ以上の利下げを予想する人がさらに4人いました。

 また,FOMCの見通しは,経済が中長期的に均衡状態へと至る望ましい経路を示し,企業,家計,投資家などの期待に働きかけることを狙ったものと捉えられます。実際の金融政策はFOMCの見通しの通りになるとは限らず,その都度の雇用・物価情勢を見て決定されます。パウエルFRB議長自身,FOMC後の記者会見で,今後の利下げ見通しについてデータとバランスを見て検討すると発言しています。

 2021年1月以降,基調的インフレ率の指標である消費者物価中央値の前年同月比上昇率と失業率の間には,失業率が低下するとインフレ率が上昇するというトレードオフの関係が見られます。経済理論的には,フィリップス曲線と呼ばれます。失業率を横軸に,インフレ率を縦軸に取ると,右下がりで原点に対して凸な曲線となり,景気が過熱化して失業率が低水準になると,インフレ率が大きく上がりやすいのに対し,景気減速局面に失業率が大きく上昇してもインフレ率は下がりにくい傾向が示されています。2021年1月から2025年9月の月次データに基づき,3次式を用いた回帰分析を行うと,y=消費者物価中央値前年同月比上昇率,x=失業率とした時,次の推計式が求められました。

 y=−0.5094x3+8.4072x2−46.343x+87.711 決定係数0.9364

 9月時点で失業率は4.4%,消費者物価中央値前年同月比上昇率は+3.5%でした。この推計式に基づけば,失業率が5%に上昇すると消費者物価中央値上昇率は+2.5%に下がりますが,失業率が6%まで上昇しても消費者物価中央値上昇率は+2.3%までしか下がらないと推計されます。景気減速時に,インフレ率が十分下がるまで利下げを先延ばしにすると,そのあいだに失業率が大きく上昇することを示唆しており,物価安定と最大雇用の二重の責務を担うFRBとしては,失業率が上昇基調にある現状において,金融政策の判断にとって失業率の動向の方がインフレ率より重要と考えられます。

失業率の上昇が続けば利下げも続く

 11月のISM雇用指数は,増減の分岐点である50を製造業は10カ月連続,非製造業は6カ月連続で下回り,雇用の減少を示しています。公表が遅れていた雇用統計は,10月分は一部欠損となり,11月分は12月16日公表となりました。12月分は通常のスケジュールに戻り,1月9日に公表されます。ISM雇用指数の弱さから見れば,12月には失業率は4.7%前後まで上昇しそうです。実際にそうなれば,1月27,28日の次回FOMCでの利下げの公算が高まるでしょう。その後も失業率が5%以上まで上昇すれば利下げが続き,2026年の年間の利下げ幅は1%以上になりそうです。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4128.html)

関連記事

榊 茂樹

最新のコラム

おすすめの本〈 広告 〉