世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4129
世界経済評論IMPACT No.4129

ヨーロッパの右派勢力と欧州議会動向

山本 直

(日本大学法学部 教授)

2025.12.15

 近年のヨーロッパで右派勢力が台頭していることは,わが国でもたびたび報じられてきた。その影響は,現代ヨーロッパの象徴的な組織といえる欧州議会にも及んでいる。

 欧州議会は,EUの主な機関の1つであり,EUの立法と予算決定,さらには欧州委員会の人事などでも重要な役割を担う。そのような欧州議会においても右派勢力の存在感が増している。

 2024年6月に,欧州議会の全議員720名を選出する選挙がEU諸国で実施された。この720名は,EUに加盟する27の各々の国に対して,人口規模に応じて割り振られている。例えば,人口が最も多いドイツには96議席が,次に多いフランスには81議席が割り振られる。逆に,人口が最も少ない3カ国(マルタ,ルクセンブルク,キプロス)は各々6議席といった塩梅である。

 こうして割り振られた議席に応じて直接普通選挙が実施され,各国が当選者を欧州議会に送り込むのである。2024年6月の選挙では,ルペンとバルデラが率いるフランスの「国民連合」,ならびにイタリアのメローニ首相が党首である「イタリアの同胞」のほか,「ドイツのための選択肢」,オランダの「自由党」など,日本でも知られる右派政党が軒並み議席を増やした。同じ右派政党でも,ハンガリーの「フィデス」やポーランドの「法と正義」など,議席を減らした政党もある。とはいえ全体としては,左派やリベラルに類される政党の議席の多くを,右派政党が奪うかたちとなった。

 ここで気になるのは,これらの右派政党が,欧州議会でどのように互いに協力しているかである。EU諸国の右派政党の指導者らは,反移民や反気候変動対策など,アメリカのトランプ大統領と同様の主張を行っている。さらには,「民族国家を解体する」グローバリストや「既得権を享受する」エリート層を標的にしつつ,自らが善き庶民を代表しているかのようにふるまうところも似ている。以上のような共通項があるにもかかわらず,各国の右派政党が結集する統一的な会派は,欧州議会ではなかなか誕生しそうにない。

 統一的な会派ができにくい理由はいくつかある。第1に,2022年から続くロシア・ウクライナ戦争をめぐって,主な政党の間でさえスタンスの違いが見られる。例えば,「フィデス」はかなり親ロシアであるが,「法と正義」や「イタリアの同胞」はプーチンに対して非常に批判的である。

 第2に,第二次世界大戦時のナチス・ドイツの行いをめぐる評価に違いがある。例えば,「ドイツのための選択肢」には,ナチスにそれほど否定的ではない党員がいるとされる。その一方で,フランスの「国民連合」など,西欧の政党はナチスの行いを許容していない。

 第3に,人工妊娠中絶や性的少数者をはじめとする社会的な課題も考え方が同じとはいいがたい。こうした課題に,中・東欧の右派政党は概して保守的である。他方,西欧や北欧の右派政党はそこまで保守的ではなく,ある程度寛容であるとされる。ただしその寛容さは,こうした課題にきわめて不寛容とされるイスラム教への当てこすりかもしれないが。

 第4に,政治的な責任の重みが党によって異なる。イタリアの首相であるメローニは,自国の財政政策や移民政策の観点からEUの支援を引き出すべき立場にある。こうしたこともありメローニは,人々の不満や怒りを代弁することに注力する諸政党と組む動機をもたない。

 そして第5に,党を率いる指導者の性格や,指導者間の人間関係もあるようだ。右派政党の多くは,その指導者のカリスマ性に依存しており,俗にいうワンマンな組織になりやすい。そのため,たとえイデオロギーや政策の志向性が近くとも,トップ同士の相性が合わないという理由で同居を嫌がるケースがある。

 このような理由から,欧州議会で議席を得た右派政党は,少数の無所属議員を除き,3つの会派のいずれかに分かれて活動する状況になっている。

 とはいえ,それでもこれら3会派で合わせて190に迫る議席を占めるわけである。このことから,欧州議会における3会派の発言力は2024年以前に比べると強まった。現に,最大会派である中道右派の「欧州人民党」と組むことにより,ベネズエラの大統領選挙の結果について非立法的決議を成功裏に採択させた。これは,社会主義者のマドゥロを同国の正当な大統領として認めないとクギを刺す決議である。

 「欧州人民党」と右派の諸会派との連携は,その後もみられる。EUの環境法の一角を担う欧州森林破壊防止規則(EUDR)は,こうした連携をうけてかなり骨抜きにされた。2025年11月にも連携がみられ,労働や環境について報告義務を負う企業の対象が限定されたり,グリーン移行計画の策定を企業に求める案が撤回されたりしている。

 こうしたケースは今のところそれほど多くはない。また,環境規制の緩和などにはリベラルの会派からも賛成議員が出ており,「欧州人民党プラス右派会派」という組み合わせが常に鮮やかに浮き出るわけでもない。それでも議会には,右派の諸会派と組んで多数派を目指すことに拒否感を抱く議員も多い。そのような議員が主張する防疫線(コルドン・サニテール)であるが,「欧州人民党」は以前ほどにはこれを破ることに躊躇を見せなくなっている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4129.html)

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