世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
現行移住政策で地方創生は可能だろうか
(高崎経済大学 名誉教授・(公社)日本地理学会 元会長)
2024.10.21
1.地方創生交付金倍増への期待と不安
まち・ひと・しごと創生法(2014年法律第136号)が施行されて10年になる。初代地方創生担当大臣を務めた石破茂氏が,内閣総理大臣就任の所信表明演説(2024.10.5)で「地方創生」を重点政策に掲げ,「交付金を当初予算ベースで倍増することを目指す」とした。筆者は,日本学術会議や学会で地方創生のあり方研究に係わり,自治体における地方創生総合戦略の策定・推進・検証に携わっている。その経験から地方創生交付金倍増への期待と不安がある。
日本全体が少子高齢化で人口減少社会となったため,人口戦略は各自治体とも地方創生政策の基幹を成し,小規模で人口減少の著しい自治体ほど移住促進政策に重点を置いてきた。人と予算をつぎ込んで政策を実施すれば,一定のプラス効果はある。しかし,日本全体の人口が減少する中では移住者への手厚い補助金政策が実施されても,地方弱小自治体への移住促進は難しい状況にある。
2.効果的なのか移住補助金
某自治体は新築戸建て住宅に20年間居住すれば,移住者に土地・建物を無償譲渡する。また新築住宅に5年以上の居住で200万円補助し,中学生以下の子どもを扶養する世帯には一人30万円,最大二人まで加算する。さらに,東京への新幹線通勤手当を2/3まで補助する自治体もある。いわゆる消滅自治体と言われる自治体には,こうした移住政策で再生を図らざるを得ない自治体もあろう。しかし,財政力に乏しい自治体がこの種の補助をする必要性やその効果に,筆者は疑問を感じている。
移住者に話を聞く限りその多くは,補助金に感謝しつつも,自然環境や自分の生き方・将来を見通した人生設計を考えて移住先を選択している。また,移住後に重視するのは地域の人々との交流・融和であり,家族でいかに移住先地域社会に馴染めるかである。特にIターン型移住の場合,補助金がなくとも移住生活できる資金と知識・世界観を持つ人が多い。これらの人は移住先住民の地域愛や地域づくりへの熱意を重視している。
他方,受入自治体における大多数の高齢者は永住希望であるが,20歳代を中心とする若年層の1/3が他地域へ転出希望をもつ自治体もある。移住政策で転入する人の何倍もの若者が地元を去っており,若年層の流出にもっと目を向けるべきと考える。
3.「総合対策」型地方創生から「総合戦略」型地方創生への転換を期待
過去10年の地方創生政策で自治体は総合戦略を策定し,東京一極集中の是正と地方の再生を図った。しかし,多くの自治体における「総合戦略」の実態は,目先の問題解決を目指した「総合対策」計画の策定とその実施であった。そのため,検証委員会でのKPI(重要業績評価指標)もかなり具体的に評価でき,概ね「良好」評価を得ていると思う。しかし,まち・ひと・しごと創生法が目標とした地方創生の達成にならず,国全体の弱体化が進んでいる。
石破内閣が地方創生・日本創生を大きな目標として予算措置を拡大するなら,各自治体は従前とは異なる方法で真の総合戦略を策定し,その実現に努める必要がある。そのためには,その地域の歴史・伝統を活かし,時代に対応した柱となる産業を創生し,それを基軸にまち・ひと・しごとの再構築を図るべく関係者全員が取り組まねばならない。
移住補助金の多寡で移住者を取り合うより,その補助金を地域で地方創生を担い支える人材養成や住みやすく誇りの持てる地域づくりに使うべきと考える。地方には風土に適した空き古民家が多数存在する。新築住宅と空き家を増加させる政策でなく,良好な空き古民家を移住者と改修保存しつつ集落再構築を図ることもできよう。
地方の人々が育てた若者が大都市へ流出し,大都市の繁栄に貢献し,地方の衰退に協力する姿を目にする。大学進学等で外へ出ても故郷へ戻りたくなる地域づくり,教育環境を整えるために地方創生交付金を活用すべきと考える。子どもの教育・生活環境整備が,将来にわたり地域を見捨てない子ども育成の政策であり,移住者にも魅力となろう。
自ら地域の魅力づくり・生活しやすさに努力し,誇りを持てる地域づくりをすることが地方創生の原点である。国民一人一人がその努力をすることで,大都市部と地方が互恵平等に交流できる環境に転換し,東京一極集中・少子高齢化問題も解決に向かうと考える。
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