世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
トランプ関税発動後の日本経済成長率を考える:民間調査機関各社の見通し
((株)東レ経営研究所産業経済調査部長 チーフエコノミスト)
2025.06.02
民間調査機関の2025年度日本経済見通しは0.4%の見込み
2025年1-3月期のGDP成長率(一次速報値,2025年5月16日)が1年ぶりのマイナスの前期比年率▲0.7%という発表を受けて,民間調査機関16社は,日本の実質経済成長率見通しを,平均0.4%の経済成長率と見込んでいる(5月23日時点)。
2ヵ月前の25年3月時点の同見通し(9社平均)は1.0%であったことから,0.6%ポイントの大幅下方修正である。統計の変更やリーマンショックやコロナ禍のような特殊イベントを除けば,2ヵ月程度でここまで大きく改訂されたことはなく,さらに日本経済の場合,景気変動を除いた巡航速度である潜在成長率はおよそ0.5~1.0%程度に過ぎないため,同程度の引き下げはかなりの下方修正といえる。
見方分かれる日本の輸出見通し
25年度経済見通しについて需要項目別にみると,大きく修正されたのは,住宅投資と輸出である。2025年度の住宅投資の見通し平均は2ヵ月前の時点では-0.4%とマイナス成長を見込んでいたが,直近の同平均見通しでは0.6%とプラス成長に転換した。これは金利上昇の影響と25年度以降の建築基準法・建築物省エネ法の改正による規制強化を避けるための前倒し着工という特殊事情によるためだが,住宅投資そのもののGDPに占める割合が小さいこともあって日本経済全体の成長率見通しには大きな影響を与えていない。
もう一方の2025年度の輸出の見通し平均は2ヵ月前の時点では2.0%の成長を見込んでいたが,直近では-0.4%とマイナス成長に転落した。4月の貿易統計すら出ていない段階での下方修正であり,一連のトランプ関税,とりわけ4月2日以降の相互関税の発表等が日本の輸出見通しに影響を及ぼしていることがわかる。ただ上位3社と下位3社の輸出見通しの平均を見ると,下位3社は-1.7%と大きく下振れしているのに対して,上位3社は+1.1%と依然としてプラス成長を見込んでいる。上位と下位の輸出見通しでここまで数値が離れることは珍しい。上位の調査機関がプラス輸出と見込んでいる理由について明確な説明はないが,サービス輸出に計上されるインバウンド消費が堅調なことに加えて,トランプ関税が最終的には穏やかなものになることを予想しているのではないかと思う。だからと言ってトランプ関税が消滅して影響が雲散霧消するわけではないが,日本の輸出が壊滅的な結果にはならないと踏んでいるのではないだろうか。
相互関税,半導体等の関税,そして日米交渉に注目
また,個人消費や設備投資の見通しについては下方に修正されたとはいえ,かなり限定されている。これは,大半の調査機関が現時点ではトランプ関税は輸出には影響を及ぼすが,内需の悪化にはいたらず,景気後退は回避されるとみていることを示唆する。ただ,このような見通しは現時点のものであって確度は高くない。このままトランプ関税が経済活動に影響して企業収益に打撃を与えると同時に,不透明感を残すこととなれば,個人消費や設備投資も低迷に向かうことは間違いないだろう。
となると,今後の日本経済の先行きを占うにあたっての注目点は,現在停止されている相互関税の国別関税分の賦課,半導体やスマートフォン向け等の関税の賦課,そして日米交渉となる。相互関税も半導体等も今夏以降に結果が判明するが,その結果と米国からの措置によっては日本の輸出,ひいては他の需要項目を下押しして日本経済を景気後退に導く恐れがあり,注意を要する。一方,日米交渉の結果,少なくとも先行き不透明感が払しょくされることとなれば,かろうじて景気は回復基調を維持すると考える。
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