世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
第2期トランプ政権の注目点:連邦議会の対応とドル下落リスク
((株)東レ経営研究所産業経済調査部長 チーフエコノミスト)
2025.03.03
精力的な第2期トランプ政権の動き
1月20日に第2期トランプ政権が発足したが,トランプ大統領は精力的に動いている。就任初日で41点もの大統領令等を発出し,2月18日時点でその数90点を超えた。就任100日以内の歴代大統領の発出数を比較すると,現時点でフランクリン・D・ルーズベルトに次いで2位であるが,いずれ歴代1位となることは間違いない。
発出内容は,就任初日に発表した「米国第一主義」にのっとっている。すなわち移民規制など国境等の安全強化,物価安定とエネルギー優越性,規制改革と反DE&I(多様性,衡平性,包摂性),米国の伝統的価値観の回帰である。これらの動きは概ね前政権であるバイデン民主党政権の政策否定である。なかでもイーロン・マスク率いる政府効率化省(DOGE)が連邦職員の大量解雇などに動き,目標である2兆ドルの政府支出削減を目論む。目標を達成できるかはさておき,彼らがここまで影響力を発揮するとは想定外だろう。
もちろんトランプ大統領は関税引き上げも忘れていない。米国の貿易赤字等の調査と改善案,対外歳入庁設置の調査,貿易相手国の不公正な貿易慣行等についての評価と追加関税についての調査,カナダ,メキシコ,中国に追加関税の賦課(カナダ,メキシコは3月4日まで保留),鉄鋼・アルミの一律追加関税の賦課,そして相互関税導入の調査と検討,を指示した。第一期政権時に比べてスムーズに進めているため,貿易相手国は対応に苦慮している。
今後は連邦議会の対応が焦点
これまでやりたい放題で通してきた第2期トランプ政権であるが,予算措置が必要な政策,例えば不法移民の強制送還やインフラ投資・雇用法やインフレ抑制法の改正,年末に失効するトランプ減税の延長等,には連邦議会の議決が必要となる。直近では3月14日に失効する暫定予算の扱いや今年央に達する債務上限への対応は連邦議会が舞台となるため,トランプ大統領の思う通りにはいかない。確かに上下両院ともに共和党が多数を握っているが,その差は両院とも僅差にすぎない。現在,上下両院の共和党がそれぞれ本年度予算案の提案・決議を行うことに成功したが,これで財政調整手続きを用いて過半数で議決可能となり,予算成立のハードルは低くなった。債務上限引き上げやトランプ減税の延長等が盛り込まれた下院共和党の同予算案がベースとなるが,メディケイドなどの支出削減に警戒感を示す議員,財政均衡を重んじる議員,トランプ減税の拡大を求める議員等もいてその成立には紆余曲折が予想されよう。
ドル急落の恐れも
仮に連邦議会でトランプ大統領の意向に沿う形で予算案等がまとまったとすると,気がかりなのは為替の動向である。米国の財政支出が拡大し,巨額の連邦財政赤字を長期間抱えることでドルの信認性を傷つける恐れがある。一方で中国など海外当局のドル離れは現在進行しているが,将来において加速しよう。さらにトランプ大統領の発言も要注意だ。貿易赤字是正や米国製造業の輸出振興等の観点からドル安志向やドル安容認の発言が市場で不安を惹起させる。政府高官のドル安誘導も同様に注意が必要だろう。
現在,為替市場は米金融当局の様子見姿勢で大きく動いていないが,連邦財政の状況や大統領の発言をきっかけにドル安が急速に進む恐れがある。ドル急落は国際金融市場で動揺が起きるだけでなく,米国内ではインフレ,海外では輸出へのブレ―キがかかり,内外経済で大混乱が発生する。
これ以外にもリスクは存在しているが,正直予測できない。波乱含みの第2期トランプ政権の経済運営に対して日本の政府や企業はどのような展開にも対応できるように心構えをしておく必要があろう。
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