世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.883

本質的な議論が必要な米韓FTA

高安雄一

(大東文化大学 教授)

2017.07.24

 韓国で通商政策を司る産業通商資源部は,去る7月13日,アメリカ貿易代表部(USTR)から,米韓FTAにかかる合同委員会特別会合の開催を要請する書簡を受け取ったことを公表した。米韓FTAの22.2条によれば,協定の実施状況などを協議するための合同委員会を毎年定期的に開催することとなっている。そしてこれとは別に,アメリカあるいは韓国から特別会合の開催が要請された場合,30日以内に会合を開催する必要がある。アメリカはこの条文に基づき,特別会合の開催を要請したわけである。なお,産業通商資源部の公表資料から,アメリカ側は,対韓貿易赤字拡大の要因は米韓FTAにあると考えており,米韓FTAの再協議を行いたいという意図を持っていることが読み取れる。

 韓国側は,トランプ大統領の就任後,アメリカが対韓貿易赤字の是正を求めてくることを予測しており,米韓FTAの発効後,アメリカの対韓貿易赤字は拡大したかもしれないが,win-winの協定であることを報道資料によって強調した。この資料によれば,米韓FTA発効前の2011年には,韓国の対米貿易黒字は116億ドルであったが,その後,おおむね一貫して黒字幅が拡大し,2016年には233億ドルとなった。一方,サービス収支は韓国側の赤字であり,赤字幅が2011年の110億ドルから2015年には141億ドルへと拡大した。さらには,直接投資を見れば,韓国の対米投資額がアメリカの対韓投資額を上回っている。そして,韓国の対米直接投資額は,米韓FTA発効前5年間の累計額は231億ドルであったが,発効後5年間にはこれが60%の増加した370億ドルとなった。

 韓国政府が言いたいことは,米韓FTAによりアメリカの対韓貿易収支の赤字幅は拡大したかもしれないが,対韓サービス収支の黒字は拡大しているとともに,韓国からの直接投資も増えているので,win-winの関係でいいではないかということと推測される。しかしながら,FTAの成否を相手国との貿易収支や直接投資の受入額などで測ることが妥当なのであろうか。この答えはノーである。そもそも貿易収支の赤字が経済にとってマイナスであるとは言えない。ましてや,二国間の貿易収支が不均衡であったからといって,黒字国が勝者,赤字国は敗者ということはありえず,均衡させる必要もない。

 FTAは,締約国間の間に存在する貿易や投資などに関する障壁をなくすことで,お互いの国の経済厚生を高めることが目的である。この基本に立ち返れば,アメリカが対韓貿易赤字を問題にし,さらにはこれを米韓FTAと関連づけることは正しくない。また,韓国政府が,アメリカの対韓サービス収支黒字は拡大して,韓国のアメリカ向け直接投資も拡大しているので米韓FTAはアメリカの一人負けではないと主張することにも違和感がある。

 米韓FTAは,関税撤廃にまで10年を超える歳月を必要とする品目はあるものの,最終的な自由化率は品目ベースでアメリカ側が100%,韓国側も99.7%であるなど,総じて質の高いFTAといえる。FTAの本質を見誤った議論により,米韓FTAの内容が後退しないことを祈るばかりである。

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