世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1191

実害はなくアメリカの不満をかわした韓国:改定米韓FTA

高安雄一

(大東文化大学 教授)

2018.10.22

 9月24日に改定米韓FTAが署名された。今回の改定については,トランプ政権の圧力に韓国が屈して譲歩したように報じられることがあるが,実際は韓国に実害が出るとは考えられない。

 韓国が譲歩したとされる自動車に関する合意事項を見てみよう。第一は貨物自動車の関税撤廃時期の延期である。2012年に発効した米韓FTAでは,貨物自動車の元々の関税率である25%を2021年に撤廃の引き下げでは関税を撤廃することで合意した。しかしながら,今回の合意では,10年目の関税撤廃が20年延長,すなわち2041年まで延長されることとなった。

 韓国メーカーが実際に貨物自動車を輸出できる場合には,この延長によって韓国の自動車業界が実害を受ける。具体的にはピックアップトラックが輸出の候補となるが,韓国の自動車生産技術に鑑みると,関税が撤廃されたとしてもピックアップトラックをアメリカに輸出することは難しいと考えられる。

 韓国が強みを持たないピックアップトラックに力を割くよりも,自動運転などの最新技術にリソースを投入した方が韓国の自動車業界のためになり,当然のことながら自動車メーカーもそのように考えているだろう。よって貨物自動車の関税撤廃時期が延期されても韓国には実害はない。

 第二は自動車の安全基準の緩和拡大である。現行の米韓FTAでは,販売台数が2万5千台以内である自動車メーカーが生産し,アメリカから韓国に輸入された自動車については,韓国の安全基準を満たさなくてもよいこととされている。しかし改定後は,アメリカの安全基準を満たすことをもって韓国の安全基準を満たしたとみなされる自動車メーカーが,前年の韓国での販売実績で2万5千台以下から5万台以下へと拡大される。

 韓国に2万5千台以上,販売する可能性のあるアメリカのメーカーがあれば,改定により韓国は実害を受ける。しかし,2017年の実績を見ると,韓国に1万台以上販売したアメリカの自動車メーカーはなく,アメリカで生産された第三国メーカーの韓国での販売実績も2万5千台に遠くおよばない。韓国で1万台販売できるメーカーすらないなか,韓国の環境規制の対象外となる自動車の台数が増えても実害はない。

 ちなみにアメリカは交渉の過程で農業分野におけるさらなる開放を迫っていたようであるが,これは受け入れずに済んだ。一方,韓国はアメリカからささやかではあるが譲歩を引き出した。その一つは繊維である。繊維産業にとってアメリカは重要な輸出先であり,アメリカに輸出できないと繊維産業は生き残ることができない。米韓FTAにおける繊維に関する原産地規則を見ると,yarn-forward,すなわち原糸が生産されたところが生産地になるルールが盛り込まれている。つまり輸入した原糸を使って韓国で繊維製品を作っても,これは韓国産とは認められない。この場合,韓国メーカーがアメリカに繊維製品を輸出してもFTAの恩恵を受けることはできない。yarn-forwardはアメリカ独特のルールであり,韓国のメーカーが品質の良い繊維製品を作っても,原糸は東南アジアや中国から輸入するのでFTAの恩恵を受けることができないわけである。このルールについては改定前から対象から除外される繊維製品があるが,改定にともない除外の範囲が拡大される模様である。

 今回の改定に背景には,対韓貿易赤字に対するアメリカの不満があるが,韓国は実害なくアメリカの不満をかわすことができた。またトランプ政権も韓国から譲歩を勝ち取ったように国内に宣伝できる。米韓FTAの改定はWin-Winの結果をもたらしたようである。

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