世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
経済合理性は政治的対立に優越する:韓国と中国の事例
(大東文化大学 教授)
2018.02.05
韓国経済は中国経済に大きく依存している。これをOECDとWTOが共同で作成しているTiVA(Trade in Value-Added)指標から見てみよう。数値は少し古いが2011年における韓国のGDPに占める国外最終需要比率は33.4%である。これを国際比較すれば,日本が12.1%,アメリカが10.4%,EU(28カ国)が13.1%であり,韓国の数値はOECD加盟35カ国の中でも高い順から6番目である。これは韓国経済が外国の経済に大きく依存していることを意味する。そして,国外で最終的に需要される付加価値全体に占める,各国で最終的に需要される付加価値の比率を見ると,同じく2011年で,中国が19.1%,アメリカが17.3%であり,中国経済への依存度がアメリカを上回っている。
このように韓国経済は中国経済へ強く依存している。そのようななか韓国政府は,2016年7月に中国が強く反対してきたTHAAD(Terminal High Altitude Area Defense missile:終末高高度防衛ミサイル)を国内へ配備することを決定した。中国はこれに反発して韓国に対して事実上の経済的な報復措置を行ったが,韓国経済が中国経済に依存していることから,当初は韓国経済がダメージを受けることが懸念された。しかしマクロで見ればこの懸念はまったく杞憂に終わり,皮肉なことに中国経済が韓国経済をフォローする形となっている。すなわち,経済合理性が政治的な対立に優越する形となっている。
ミクロでみれば,韓国への団体観光客を制限する,韓国産化粧品の輸入不許可措置,韓流スターの中国公演中止,ロッテ製品の不買運動(ロッテグループの企業がTHAAD配備用地を提供したため)などにより,被害を受けた業界や企業もある。一方で韓国経済は,これまで不振であった輸出が回復するとともに好調に推移している。2017年7〜9月の実質GDP成長率(季節調整済前期比)は,外需を中心に年率で5.7%増といった高い数値を記録した。この数値は瞬間風速であるが,2017年全体の成長率も,2015年,2016年と連続した3%割れから脱する見通しである。
韓国経済に大いに貢献しているのが中国向け輸出であり,輸出金額は2017年に入ってから10月まで前年同月比でおおむね2ケタ増で推移するなど,きわめて好調である。これは財政政策など各種政策効果により中国の景気が回復したことが大きい。中国向け輸出で好調なものがスマートフォンの部品となる半導体(メモリー)である。メモリーは世界的に需給がタイトになっており,韓国から調達しないことにはスマートフォンの製造ができなくなる。近年は中国のスマートフォンメーカーが存在感を増しているが,これら企業も政治情勢を忖度することはなく,経済合理性にもとづき必要な部品を調達するため韓国企業から半導体を購入している。
THAAD配備にともなう韓国に対する経済的な報復措置の影響は,中国の景気回復などによる輸出増の影響と比較すればきわめて小さい。一般的には,政治的な対立が経済に影響することも少なくないと考えられるが,今回の韓国と中国の事例は,経済合理性は政治的対立に優越することを示すわかりやすい事例といえるだろう。
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