世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国のOBOR構想は“Our Bulldozers Our Rules”の懸念
(東北文化学園大学 名誉教授)
2017.05.22
5月14日と15日に北京市で開催された「一帯一路」国際フォーラムには,29カ国からの首脳と130以上の国からの代表約1,500人が参加した。「一帯一路」は,習近平国家主席が米国のリバランス政策やTPP構想に対抗すべくアジア,アフリカ,中東,欧州にまたがる国際経済圏構想として2013年に提唱し,シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードから成る「一帯一路(One Belt One Road,略してOBOR)」といわれる。その後14年にシルクロード基金,15年にはAIIB(アジアインフラ投資銀行)の創設を経て,今回初の国際会議となった。AIIBは1966年に創設され長年の実績を有するADB(アジア開発銀行)に比べて資金やスタッフはまだ10分の1程度であるが,参加国・地域数はADBの67に比べて会議直前に77になったと直前に発表された。
OBOR構想の沿線国は65とされるが,国際フォーラムへの参加国首脳は半数に満たず,またG7ではイタリアのみで日米や英独仏が参加せず,BRICSでは中国とロシア2カ国のみの参加となった。その大きな理由はOBOR構想に対する懸念が影響していると考えられる。その点について,第1に,代表的な世界的有力誌の論評で確認し,また懸念を示す代表国としてインドの反応を見る。第2には,筆者がかつて中国の若手研究者と意見交換した話題から検討する。
まず,世界の代表的な論評では,The Economist誌が2016年7月2日号でOBOR構想をOur Bulldozers Our Rulesと皮肉って伝えた。すなわち,同構想はシルクロード関係国の道路,発電,鉄道,港湾等インフラ整備を中心に中国が支援し広域経済圏を建設するものであるが,習主席がブルドーザーを運転し中国が主導し中国のルールで進める趣旨の漫画が描かれ,10カ国の支援プロジェクトが紹介されている。漫画は,輸出市場の拡大や資源確保等中国の経済的利益が優先され,中国からの機材や労働者の丸抱え支援が現地でしばしば反発を招いている問題を示しているようだ。また,アジアやアフリカ諸国との関係強化や南シナ海,インド洋進出に見られる政治的覇権主義の懸念が込められていると思われる。
もう一つ懸念の例を挙げると,AIIB創設には参加しながらもOBORには反対をしているインドのスタンスが分かり易い。インドは中国と3,000キロを超える国境を接し北東部等に係争地を抱え,英国の植民地からの分離独立以来3度の戦火を交えたパキスタンにはOBORの代表的なプロジェクトで投資額570億ドル以上といわれるCPEC(中国パキスタン経済回廊)の建設が進む。これは,中国西部の都市カシュガルからカラコルム山脈,領有権を争うカシミールを経てインダス川沿いにアラビア海沿岸のグワダル港開発に至る道路,電力,鉄道,工業団地建設等のインフラ開発を中心とする膨大な支援である。インドにとっては宿敵のパキスタンに中国が経済回廊建設協力でインド洋進出を図るもので,周辺国のバングラデシュやスリランカの港湾建設や震災後のネパール支援を加えOBOR構想以前には“真珠のネックレス”戦略といわれたインド包囲網の根幹を成す。この4月には,チベットからインドに亡命したダライ・ラマ14世の北東部州訪問に中国が非難を繰り返していることもあり,インド政府は出席要請に応じずマスコミはOBOR構想への懸念を報じた。
次ぎに,2年前,筆者が中連部(中国共産党中央対外連絡部)の若手研究員と行ったAIIBをめぐっての意見交換に触れたい。日中東北間交流関連のミッションに参加した折に,筆者はアジアのインフラ需要は資金不足の現状からAIIBへの期待は大きいと評価したうえで,中国の海外支援は被支援国の自主性や民意,自立的開発を最大限重視すべきと苦言を呈した。特に資金のみならず資材輸出や労働力派遣の丸抱え支援は,自立的開発の自助協力を殺ぐことになりかねないばかりか,現地側の反発を招くと是正を訴えた。これに対して,中国の支援は被支援国との相互利益,互恵をもたらすWIN-WINのパートナーシップを重視していると反論された。しかし,誰にとってのWINなのか,しばしば相手が軍事政権の場合や住民の生活環境や自立をないがしろにするケースは少なくないし,中国にとっての利益は中国共産党のそれであろう。若手研究員は理解してくれたと思うが,共産党トップの政治的判断は別であろうと感じた。
OBOR国際フォーラムを主催した習近平国家主席は開催演説で,「協力と相互利益を核心とする新たな形の国際関係を構築する」と述べ,共同声明には人権の重視や国際的基準に則った貿易や投資の文言が入ったと伝えられる。日本や米国の参加やADB等との協力推進は今後の課題であろうが,中国主導の同構想には依然警戒感が根強い。それ故に,今や世界1,2位を争う大国に成長した中国には,それにふさわしい自制と役割を発揮して警戒感を払拭し,国際協調体制と世界平和を構築して欲しいと願っている。
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