世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3764
世界経済評論IMPACT No.3764

インドの高度人材と国際生産網:文科省がインド人留学生助成

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2025.03.17

 異色のトランプ大統領2.0就任式典であったが,来賓の中にインド人の米国IT企業CEOも参加しているのに気付き,感慨にふけった。インドが英国の植民地から独立し,初代ネルー首相が国造りの工業化で人材育成を担う1951年創立のIIT(インド工科大学)のモデル校に選んだ相手は,米国が1861年に創立したMIT(マサチューセッツ工科大学)であった。その後IIT卒業の高度人材は国際的に活躍し,米国では大手IT企業のCEO,NASA職員への登用等大きな成果を上げている。このことは,独立後100年の2047年までに先進国入りを目指すインドにとって,国際生産網の波及・構築の遅れを挽回する上で明るい面となりそうだ。

ソフトウェア開発で外貨を稼ぐ

 インドの国際収支の大きな特徴は,工業品等財貿易の大幅な赤字と在外インド人(NRI,印僑)の本国送金やソフトウェア開発のサービス貿易収支の黒字である。国際収支は赤字が続く中で,前者は中国が最大の赤字相手国,後者ではIT大国米国が最大の黒字相手国である。つまり,“メイク・イン・インディア”の工業品では赤字国なるも,ITやデジタル取引では世界最大の輸出国である米国で大健闘しているのがインドの特徴である。特に,後者を支えているのはIITの卒業生達で,独立後の高度人材教育は立派に花開いたと言えよう。

 1951年に5校から始まったIITは,現在では23校を数え,年間合わせて約1万6,000人の入学者を迎える人気の難関校である。卒業した高度人材は,インドの国内はもとより米国等の海外で活躍するが,最近その地位がさらに強化される見通しが明らかになった。一つは,2月半ばに訪米したモディ首相とトランプ大統領の間で,米国の大学のインド進出が合意されたことである(注1)。インドは2020年国家教育政策でグローバル・エデユケーション・ハブ構想を打ち出しているが,米国の大学のインドキャンパス設立に道筋が付けられた。

インドは米国に次ぐ高度人材国へ

 もう一つは,世界的な高度人材国の予測で,1月半ば英国QS社の発表するQS World Future Skills Indexの調査結果が報じられ,「ゼロの発見」で知られるインドは米国に次ぐ世界第2位の高度人材国になるとの見通しである(注2)。この調査は,190カ国・地域以上,500万件を上回る雇用者技能需要,5,000以上の大学,1,750万点の調査資料等をもとに推計したものとされており,インドはAI,デジタル,グリーン技術等で卓越しているとは言い難いが,2030年の技能指数は99.1とG7平均の91.3を大きく上回り,米国に次ぐ世界第2位になると予測する。

 これは2047年までに先進国入りを目指すインドにとっては明るい評価である。つまり,まだ始まったばかりのインドへの世界の国際生産網が本格的に波及する,そしてインドから延伸する可能性を示唆するもので,インドの高度技能のグローバル化進展を示すものであろう。高度技能のグローバル化は国際生産網の誘因になり,インドに国際的企業が集積しさらにアフリカや中東に国際生産網が波及する可能性もある。また在外インド人であるNRIまたは印僑のネットワークは,国際生産網が波及伝播する要因にもなり得よう。

日本でもようやくインドの高度人材活用へ

 米国や欧州主要国がインドの高度人材に注目し,学生の確保等に力を入れる中,日本は言葉の壁もあって出遅れた感がある。インドへの直接投資で高度人材を活用できるが,意欲は高まっていつつも投資実績はまだそれほど多くはないし,日本への留学生確保や雇用といった点でも関心は薄かったと言えよう。それがようやくニーズと関心が高まり,企業がリクルートを始め,JETRO等があっせん活動を強化する中で,日本政府もインド人学生の確保に動き出した(注3)。大変好ましい展開であり,その成果に期待したいと思う。

[注]
  • (1)Times of India Modi-Trump talks pave way for US universities in India  Feb 14 2025
  • (2)Ibid. India 2nd to US in ‘future of works’ skills : QS survey  Jan 16 2025
  • (3)文科省 インド人留学生に300万円 AI人材確保狙う 日本経済新聞 2025年2月15日
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3764.html)

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